もしあなたが、
「そろそろテレビCMでも作ってみようか」
「今どきはYouTube広告だろう」
「広告代理店との“お付き合い”で、1本くらい作っておくか」
──そんな“なんとなく”の発想で広告を検討し始めている半導体企業社長、
管理職、あるいはマーケティング担当者なら、ただちに考えを改めよ。
なぜか?
“間違ったCM”をたった1本、世に出すだけで、
あなたの会社の予算、市場での競争力、そして長期的なマーケティング戦略──
それらのすべてが一瞬で吹き飛ぶからだ。
そして実際に、その致命的な過ちを犯した企業が存在する。
それが、2024年の売上高が1兆4,000億円を誇る半導体企業──
ミネベアミツミ(株)である。
しかも、このCMの“敗北”は、テレビ放送後に判明したわけではない。
放送前から、いや、制作段階の時点で“失敗”することが明白だった。
にもかかわらず、社員は誰も止めなかった。それが世に出た。
なぜこんな悲劇が起きたのか? その原因は何であったのか?
今回はミネベアミツミの“失敗確定CM”を徹底的に分析し、具体的に解説する。
そして、あなたの会社が同じ地雷を踏まないための実戦的な打ち手を提示する。半導体材料メーカーADEKAの、“失敗確定CM”の解説記事はこちら
目次
「広告=売るための武器」であることを忘れた企業は、滅ぶ
CMとは何か?
広告とは何か?
プロモーションとは何か?
──答えは、ただ一つだ。
「売るための武器」である。
だが、この“当たり前すぎる本質”を忘れた企業は、例外なく滅びる。
ミネベアミツミが制作したCMは、その典型だ。
彼らが世に放ったのは、
“広告”ではなかった。
「広告らしき何か」──
武器どころか、引き金を引いても「カチッ」と音が鳴るだけの、
オモチャの銃である。
見た目だけはそれっぽい。
だが、弾は出ない。威力もない。誰も倒せない。
そんなものをビジネスの最前線に持ち出せばどうなるか?──
顧客には無視され、自分は笑われ、最後は競合から撃たれる。
そのようなモノを、
数百万円以上費やして代理店から買い取った時点で、
もはやその企業は「マーケティング組織」ではなく、
“現代アートのコレクター組織”に成り下がっている。
これは、ミネベアミツミだけの話ではない。
多くの半導体企業、いや日本のBtoB企業全体が、売上ゼロの映像作品を
「いい出来ですね」と褒め合っている間に、競争に取り残されている。
あなたは経営者だ。
あなたはマーケティング責任者だ。
売上と利益に責任を持つ人間である。
ならば、まずこのCM
を自分の目で見よ。
そして、これから紹介する3つの致命的な失敗が──
すでに社内で起きていないか?
これから起こそうとしていないか?
代理店が提案してきていないか?
今すぐ、入念に点検せよ。
失敗1──「誰に届けたいのか」が、最後まで不明
このCMを観て、あなたはこう言い切れるだろうか?
「これは〇〇市場のターゲットに向けた広告だ」と。
──おそらく無理だ。いや、絶対に無理だ。
このCMが、リチウム電池用の保護ICを売りたいのか、
それとも新卒採用の応募者を集めたいのか──目的がまるで見えない。
映像には“メガネをかけた若い女性”。
彼女が語るのは“ふわっとした情緒的メッセージ”。
「青春をごっそり楽しめる」──これだ。
このセリフは、
おそらく広告代理店の会議室の中だけで拍手喝采を浴びたものだろう。
だが、現実の半導体業界の世界はそんなに甘くない。
購買部門の調達担当者が、
青春を楽しむことを望んでいると、本気で思っているのなら幻想も甚だしい。
もし仮に、製品(たとえばリチウム電池用の保護IC)の
販売が目的であるならば、伝えるべきメッセージはこうだ──
「弊社の保護ICはスマホの充電効率を35%改善可能です。
そのため、御社の製品競争力を飛躍的に高められます」
──たったこれだけで、広告は“誰かの課題を解決する提案”になる。
その瞬間から、CMは売上を生み出し続ける“武器”へと変わるのだ。
あなたの会社が広告で語るべきことは、“あなたの会社が言いたいこと”ではない。
顧客が聞きたいこと、知りたいこと、そして“顧客にとって得になる情報”である。
失敗2──視聴者に行動を促していない
広告とは何か?
それは、
視聴者にアクションを起こさせる
“引き金(トリガー)”である。
そのため、顧客にCMを見てもらうだけでは目的を果たせない。
顧客を動かせ。顧客を反応させろ。売上につながるCMを作れ。
・資料請求
・問い合わせ
・採用試験への応募
──このいずれかに誘導できない広告は、広告ではない。
ただの“演出ごっこ”である。
ミネベアミツミのCMは、2025年5月21日時点で11,732回再生されている。
しかし、そのうち何件が「問い合わせ」や「応募」につながったのかを、
ミネベアミツミの社員たちは把握できているだろうか?
断言しよう。
絶対に把握できていない。
なぜなら──
このCMには「問い合わせはこちら」すら存在しない。
つまり、視聴者に行動を促す“導線”が、最初から存在していないのだ。
これでは広告の効果は測定できない。
測定できなければ改善もできない。
改善できなければ、次回もまた、“無意味な広告”が納品される。
これはまさに、“的のない射撃訓練”を永遠に繰り返すようなもの。
撃っても当たらない。撃っても意味がない。
──それが、ミネベアミツミのCMである。
失敗3──「世界を変える」と言い出した時点で、もう終わり
このCMの最後にナレーションされるのが、これだ。
「世界をこっそり、ごっそり変えていく」
──言っておく。これは大企業病の末期症状である。
自己愛が暴走し、広告表現として漏れ出てしまった最悪のケースだ。
顧客企業の購買担当者が知りたいのは、「世界をどう変えるか」ではない。
「自社の課題が、どう解決されるか」である。
✔︎ 価格は下がるのか?
✔︎ 性能は上がるのか?
✔︎ 安定供給できるのか?
✔︎ サポートは充実しているのか?
──彼らが知りたいのは、このような目の前の現実である。
そのため、「世界を変える」などという抽象ワードは、ただの騒音だ。
顧客企業の調達担当者は、CMを見ながらこう思っている──
「世界を変えるんじゃなくて、ウチの競争力を高めるような半導体を作れよ…」
今回のCMは30秒しかない。
その限られた時間で伝えるべきは、自社の「夢」でも「目標」でもない。
顧客の悩みや課題に、どう応えるか──それだけだ。
自分たちが言いたいことを叫びたいのなら、CMは諦めろ。
詩集やエッセイを、会社経費で出版することをお勧めする。
CMは芸術ではない。数字で評価せよ
最後に、CM制作に関わるすべての人間が、
叩き込んでおくべき“3つの質問”を掲載する。
1.この広告で、何件の問い合わせが取れるのか?
2.そのうち、何件が受注に結びつくのか?
3.この広告にいくら使い、いくら利益が返ってくるのか?
──この3つに即答できない広告は、絶対に作ってはならない。
広告とは、マーケティングとは、数字で評価されるべき「売るための武器」である。
それを忘れた瞬間、企業は竹やりで戦車に突撃するような、愚行に走ることになる。
次に作るそのCMが、
あなたの会社の武器になるのか、墓標になるのか。
その分かれ道で問われるのは、ただ一つ──
「マーケティングを理解した上で、正しい決断ができるかどうか」だ。
今回のミネベアミツミの“失敗CM”は、決して他人事ではない。
今すぐ社内で共有せよ。
そして、その地雷を──あなた自身が踏む前に、自らの手で除去しろ。