もしあなたが、中小半導体企業の経営者で、
「ウチの技術者は優秀だ。なのに、売上がまるで伸びない」と感じているのなら──
その違和感は、ごまかしてはいけない“正しい痛み”だ。

あなたは、すでに問題の“核心”を感じ取っている。
そして、その痛みの正体は、不況のせいではない。
営業部の怠慢でもなければ、セールストークの巧拙でもない。

本質的な原因は、あなたの会社の“中”にある。
もっと言えば、“技術者の意識”そのものにある。

ここではっきりと断言しよう。
技術者が、自分のことを「技術者」であると思っている限り──
その会社の売上は、絶対に伸びない。

どれだけスペックが優れていようと、
どれだけ高性能な製品をつくっていようと、
意識がズレていれば、市場には届かない。

そんな“ズレ”を、見て見ぬふりをしたまま、いくら売ろうとしたところで──
それは、的外れな努力の繰り返しにすぎない。

進んでいるつもりでも、足元は沈むばかりだ。そう、“泥沼”でもがいているのと同じだ。
抜け出すには、まず「自分たちの意識がズレている」という事実を直視するしかない。

技術者が“語らない”ことで、すべてが止まる

「俺はモノを作るのが仕事だ」
「顧客対応は営業がやるべきだ」
「エンジニアは技術勝負。売るのは営業の仕事でしょ」

──そんな意識が、あなたの会社の売上を止めている。

「伝えるのは苦手」「話すのはプロじゃないから」
──そうやって語ることから逃げているうちに、
技術者たちは、知らぬ間に会社の成長を止めているのだ。

語られない技術は、市場に存在しないのと同じである。
どれだけ優れた製品でも、その価値が伝わらなければ、
顧客にとっては“見えない・わからない・選べない”製品なのだ。

そして、「伝える責任」から目を背けた技術者は、
製品の価値の半分を、自ら捨てているのと変わらない。

たとえば展示会。
ブースに立つ技術者が、壁のパネルを指さしながら、ひたすらスペックの暗唱を続ける。
顧客の目も見ず、聴衆の反応も気にせず、ただ原稿をなぞるだけ──

まるで、就活の面接で、暗記してきた自己紹介文を棒読みする学生のようだ。
その場にいる“人間”に向けて話していない以上、そこに“対話”など生まれるはずがない。
信頼、共感、関心すらも生まれない。

そんな説明で、誰が惹きつけられるのか?
いったい何が売れるというのか?

顧客が本当に知りたいのは、「この会社は、自社の課題をどう解決してくれるのか?」
──その問いに、真正面から答えられるのは、
製品を誰よりも深く理解している技術者自身だ。

それなのに、ただ黙ってパネルの前に立っているだけでは、
何も始まらない。何も伝わらない。
語れない技術者に、企業の未来も、顧客からの信頼も、託すことはできないのだ。

TSMCは「製造業」ではなく「サービス業」である理由

世界一のファウンドリー、TSMC(台湾積体電路製造)。
彼らは自身をこう言い切る。

「我々は製造業ではない。サービス業である」

一見、違和感のあるこの言葉こそ、
TSMCが世界から選ばれ続ける“勝因”である。

TSMCの技術者は、ただ最先端半導体を製造しているだけの存在ではない。
顧客企業の「困った」に即応し、納期・品質・柔軟性の3軸で答えを出す。
彼らは、現場のエンジニアであると同時に、プロジェクトマネージャーであり、
そして何より、顧客企業にとっての“問題解決者”である。

だからこそ求められるのは、「モノを作るだけの人」ではなく、
「顧客に価値を届け、説明できる人」だ。
その視点を持たない企業は、もはや顧客に選ばれない。

この「マインドセットの違い」こそが、
TSMCと日本の半導体企業との決定的な差であり、
そして次に問われるのは──「技術者が自ら語れるかどうか」なのである。

「語れない技術者」がいる半導体企業は、もう生き残れない。
いや、正確に言おう──「語れる技術者」がいる半導体企業だけが、生き残るのだ。

技術者に「お前も営業をしろ」と言う必要はない。
だが、「自社の技術を語れるようになれ」とは言うべきだ。
そして、そのための訓練方法は──

✔︎ 展示会で話せ
✔︎ 技術ブログを書け
✔︎ 顧客に説明する動画に出ろ
✔︎ 社内で経営陣や営業と議論しろ

なぜなら、語る力がなければ、どれだけ優れた技術も埋もれてしまうからだ。
それができない技術者は──残念ながら「過去の経験」にしがみついた存在である。
会社の未来を創ることはできない。

技術者を“問題解決者”として再定義せよ

今すぐ、技術者の役割を再定義せよ。
「製品を作る人間」ではなく、「顧客の悩みを技術で解決する人間」へ。

このマインドチェンジができない会社は、
いずれ技術者が語ることを放棄し、説明を営業任せにする。

その結果──
技術を知らない営業の言葉では、価値の本質が伝わらない。
顧客は「何が優れているのか、よく分からない」と感じ、
やがて、競合他社へと流れていく。

マーケティングとは、言葉を磨く仕事である。
言葉を磨いて初めて、“技術”は製品/サービスになる。
そして、その言葉を生み出せる唯一の存在こそが──他でもない技術者だ。

あなたの会社に、展示会で自信を持って語れる技術者はいるか?
Zoomで、顧客に技術の価値を伝えられる人材はいるか?
「説明は営業がするもの」と思い込み、技術部門は沈黙していないか?

もしそうなら──
あなたの会社の“価値の半分”は、すでに失われている。

これからの時代、勝つのは“技術力”ではない。
“語れる力”を持つ技術者を育てた会社だけが、生き残る。

エンジニアたちに「俺たちは技術者だ」と思わせるな。
これからの技術者は、顧客にとっての「問題解決者」だ。
そしてそれを育てるのは、経営者であるあなたの責任だ。

“語れる技術者”を育てること。
それこそが、あなたの会社を次のステージへ導く唯一の戦略だ。