もしあなたが──
「ウチは市場シェア3位。だが市場が小さいから、売上が伸びない」
「競合を超えるスペックを実現できれば、売上も上がるはずだ」
「そのために、実績ある技術者を採用しよう。営業力も強化しよう」
などと考えているのなら──今すぐその考えを捨てよ。
あなたの会社が売上を伸ばせていないのは、
技術力が足りないからではない。
スペックで負けているからでもない。
問題はただひとつ──「売る相手を間違えている」のである。
もちろん、技術を磨くことは重要だ。
実際、技術力No.1の企業は、それに見合った売上を手にしている。
だが、冷静に考えてほしい。
“技術No.1”の座に就ける企業は、常に1社だけだ。
残る企業──
つまり2番手以下が、トップ企業の売上を上回るには、
まったく別の戦い方が必要になる。
では、その戦い方とは何か?
✔ 製品に機能を付け足すな
✔ 高スペックを追求するな
✔ 売る相手、業界を変えろ
これこそが──“2番手以降”の半導体企業が生き残り、
売上を伸ばすための唯一のマーケティング戦略である。
食器乾燥機が、プラモデルの塗料乾燥機として売れている
あなたは、山善(YAMAZEN)の食器乾燥機が、
なぜ予想外のヒットを遂げたのかをご存じだろうか?
この製品は、その名の通り、“食器を乾かす”ための家電である。
ところが、注目されている理由は──本来とはまったく違う使われ方にある。
なんと、プラモデル愛好者たちが、
「ガンプラ(=機動戦士ガンダムのプラモデル)の塗装を乾かすツール」
として、この製品をこぞって購入していたのである。
つまり、“食器乾燥機”が、
「模型製作に最適な塗料乾燥機」として使われていたのだ。
プラモデル愛好者たちのレビューは、絶賛の嵐だった。1
「ガンプラの塗料を乾かすのに使っています」
「格段に制作スピードが上がりました!」
「もっと早く買っておけばよかった」
この評判は、SNSやECサイトにも飛び火した。
X(旧Twitter)やYouTube、Amazonのレビューでも大きな反響を呼び、
ついには、山善の公式Xアカウントが次のような投稿をするまでに至ったのだ。2
「プラモの乾燥…いや食器の乾燥に食器乾燥機を♪
ダイヤルを回すだけの簡単操作で、お手入れラクチン5人分の食器を乾燥できます。
※プラモデル乾燥はメーカーとして推奨しておりません(笑)」
──もはやメーカーすら、“使われ方の変化”を楽しんでいる状況である。
だが、この話を「面白い事例」で終わらせてはならない。
ここには、半導体企業が売上を伸ばすための本質的なヒントが隠れている。
この事例が私たちに示しているのは、
極めてシンプルで強力なマーケティングの本質だ。
✔️ 製品を変えずに、売る相手を変える。
✔️ 業界をズラすだけで、新市場が生まれる。
山善の食器乾燥機が証明しているのは──
「用途変更こそ、最強のマーケティング戦略である」という事実だ。
日本には、製品の改良ばかりに力を注ぎ、
それでも市場から消えていった企業が、いくつも存在する。
なぜ、彼らは沈んだのか?
理由は、驚くほど単純だ。
自社製品を、同じ業界、同じ顧客、同じ用途で売ることしか考えなかったからだ。
彼らに本当に欠けていたのは──技術力ではない。
エッチング装置向け薬液が「洗車用洗剤」に
たとえば──
あなたの会社が「エッチング装置向けの薬液」を販売しているとしよう。
その薬液は、本当に“半導体メーカー”にしか売れないのか?
……いや、そんなはずはない。
あなたの会社が持つ薬液の処方技術は、
自動洗車機用の高性能洗剤にも応用できる可能性がある。
というのも、自動洗車機市場では今なお、
“そこそこの洗剤”が、当たり前のように使われ続けているのが現実だからだ。
だが──もし、あなたの技術で、
✔️より強力に汚れが落ちる
✔️傷をつけず、光沢が出せる
✔️洗浄スピードが向上する
……そんな洗剤を開発できるとしたらどうだろうか?
間違いなく、洗車機メーカーも洗剤メーカーも強い関心を示すだろう。
なぜなら、洗車品質の向上は、顧客満足や価格競争力に直結するからだ。
しかも、この取り組みの恩恵を受けるのは、洗車機メーカーだけではない。
あなたの会社にとっても、大きな利点がある。
✔️ エッチング装置向け薬液で培った化学設計ノウハウを、そのまま流用できる
✔️ 家庭用洗剤のように、「手荒れ」や皮膚安全性といった細かい規制への対応が不要
✔️ さらに、自動洗車機市場には、花王やP&Gといった巨大企業がほぼ参入していない
つまり──
売る業界をズラすだけで、“競争”そのものが消えるのだ。
製品は、そのままでいい。
スペックも、いじる必要はない。
変えるのは、“売る場所”だけ。
それだけで──
あなたの会社は、競合が想像すらできなかった成功を手にすることができる。
トップ企業を超えるには、“戦場”を変えるしかない
あらためて、
あなたの会社が身を置いている市場を、冷静に見つめ直してほしい。
✔️ 市場の誕生から、すでに50年以上が経過している
✔️ 競合企業が多すぎて、差別化よりも価格競争が中心になっている
✔️ 自社を含め、どの企業も「商社依存」から抜け出せていない
──もし、これらに心当たりがあるのなら、残念ながら“勝負はすでについている”。
もはやそこは、“死んだ戦場”だ。
そんな市場で、「技術力」や「営業力」、そして「継続的な製品改良」
で勝とうとするのは──竹やり1本で装甲車に挑むようなものである。
では、どうすればいいのか?
答えは、きわめてシンプルだ。
市場を変えろ。
それだけで、あなたの製品の価値は一変する。
✔ 製品そのものをいじる必要はない
✔ スペックを高める必要もない
✔ イノベーションや最先端技術も不要だ
✔ 変えるべきは、「売る相手」と「売る業界」
たったそれだけで──
沈みかけていた製品が、まるで“無双の兵器”のように、
本来の力を発揮しはじめる。
あなたの技術を必要としているのは、いまの業界だけではない。
新しい市場には──あなたの製品を“待ち望んでいる”人たちがいる。
つまり、重要なのは「どこで戦うか」を見極めることだ。
経営とは、「何を作るか」ではなく、
「どこで戦うか」を選び取るものなのである。
最後に、はっきりと言う。
“競合と同じ土俵で戦うな”。
用途を変えろ。業界を変えろ。
製品ではなく──“戦場”を変えるのだ。
これこそが──
シェア2番手以下の企業が、トップ企業を超えるための、
唯一にして最強のマーケティング戦略である。