もしあなたが──
「CMは社員の情熱や会社の理念を伝える場だ」
「CMは自社の好感度を高めるためにある」
「CMは売上より“広告代理店との関係維持”のためにある」
などと思っているのなら──その考えは今すぐゴミ箱に捨てろ。

そんな発想は、竹やりでミサイルを迎撃しようとするようなものだ。
市場(マーケット)という戦場のルールはすでに変わっているのに、
広告という武器だけが昭和のままでは、勝てるはずがない。

いまや中小企業にとっての広告は、「売上につながるかどうか」
だけで評価される、極めてシビアなビジネスツールになっている。
つまり、広告は「感動より成果」「理念より数字」で判断される時代に突入しているのだ。

だからこそ──
情緒や理念を並べるだけの“自己満足コンテンツ”では、
競合を出し抜く売上など望めない。

それどころか、効果のない広告に金を注ぎ込み続ければ、
気づかぬうちに経営をじわじわと蝕む“毒”にさえなりかねない。

──では、CMとは何か?
それは、「顧客にとっての利益を、一言で伝える会社最大の営業装置」である。

にもかかわらず、多くのBtoB企業──とくに半導体業界の経営者たちは、
いまだにCMを「自社の想いを詰め込むショーケース」だと信じ込んでいる。

こうした“壮大な誤解”が、実際の企業CMにどのような形で現れているのか?
──その最たる例が、材料大手・株式会社レゾナックのCMである。

レゾナックCMの問題点──なぜ、このCMは“売れない”のか?

まずは、レゾナックのCMを見てほしい。

このCMには、人気俳優・滝藤賢一が出演している。紹介されているのは、
「銅張積層板」「ドライフィルム」「CMPスラリー」「アンダーフィル」「感光性
絶縁材料」──いずれも、レゾナックが世界シェアNo.1を誇る5つの半導体材料だ。

たしかに、製品のラインナップを示すという意味では、広告の役目を果たしている。
だが、マーケティング視点から見ると──決定的に欠けているものがある。
それは、「この材料を使えば、顧客にどんなメリットがあるのか?」という視点だ。

CM内で紹介されているのは、あくまで製品名だけ。
「誰の」「どんな課題が」「どう改善されるのか」──それらは一切語られていない。

さらに問題なのは、「資料請求はこちら」「お問い合わせはこちら」といった、
視聴者の行動を促す導線がまったく存在しない点だ。
これでは、このCMが売上にどれほど貢献したのか、効果測定すらできない。

なぜ、こんな“へっぽこCM”が世に出てしまったのか?
その答えは──レゾナックの公式ホームページにある。

注意点:
レゾナックの公式ページに掲載されているインタビュー記事は、2023年に制作されたCMに関するものである。だが、今回のCMにも同じく滝藤賢一が起用されていることから、セリフ(台本)についても、当時と同様にエレクトロニクス事業本部の開発センター長および、SiC CTO/SiC統括副部長が監修したと推測できる。そのため、本稿では今回のCMもこの2人が台本を手がけたものと仮定して話を進めていく。

CMの台本制作に関わった副部長はこう語っている。

「今回はそんなSiCウェハーのすばらしさや、
 我々の熱量を伝えたいという思いで、セリフを監修させていただきました。

──この時点で、方向性を完全に誤っている。

CMは、「自分たちの熱量」を伝える場ではない。
顧客にとっての“得”を、端的に叫ぶ場なのである。

さらに、副部長はこう続ける。

「当初は『これで良いのだろうか』という不安がありましたが、
 出来上がったものを見て、感動いたしました。

──はっきり言おう。
「感動しました」という感想を抱いた時点で、広告責任者として失格である。

そして、この副部長が最初に抱いた『これで良いのだろうか』という不安──
それこそが、もっとも正しい直感だったのだ。

CMとは──
✔︎ 作った本人が感動するための作品ではない。
✔︎ 視聴者が涙するための映像でもない。
✔︎ 自社の好感度を上げるための自己紹介動画でもない。

CMの目的は、ただひとつ。
売上を生み出すこと──それ以外にはない。

“がんばってます”では売れない──成果に直結するCMの原則

マーケティングの原理原則は、いたってシンプルだ。

✔︎ 顧客の“困っていること”に共感せよ
✔︎ 顧客の“なりたい未来”を想像させよ
✔︎ 自社製品/サービスが果たす“具体的な役割”を示せ

──これだけでいい。
そこに、“感動”や“社員の熱量”といった情緒的な要素は、一切必要ない。

つまり、CMとは「あなたががんばってる話」ではない。
「顧客にどんな成果をもたらすか」を明確に伝えるものでなければならないのだ。
そのため、「製品のスペック自慢」や「社員の情熱PR」などはすべて的外れである。

では、どうすれば“顧客にとっての利益が一瞬で伝わるCM”が作れるのか?
必要なのは、こんな一言である。

✔︎「SiCで機器の発熱を30%カット。冷却コストを削減」
✔︎「GaN×省スペース設計で、人型ロボの生産性を倍増」
✔︎「この新素材で、1年間の電力コストを大幅削減」

──いずれも、顧客が得られる具体的なメリットを、直感的に
理解できる表現になっている。だからこそ、CMを見た瞬間、
「これは自分に関係ある」と感じさせることができるのだ。

CM内で「この製品は自分の課題を解決してくれる」と感じさせること──
それこそが、問い合わせや資料請求といった行動を引き出す原動力になる。
そしてその先には、具体的なビジネス成果へとつながる道筋が続いている。

資料請求が増える→問い合わせが増える→商談が生まれる→売上につながる。
成果に直結するこの流れこそが、広告本来のあるべき姿である。

広告に必要なのは“社員の熱量”ではなく“価値の提示”

CMは、あなたの“情熱を語る自己紹介ツール”ではない。
社員向けスピーチでもなければ、社内ウケを狙ったムービーでもない。

✔︎「感動」「面白い」「がんばってます」──
それで売上が伸びた事例を、ひとつでも挙げられるか?

✔︎「経営理念」「社長の想い」「社長の夢」──
それは家族や社員に語るものであって、顧客には関係ない。

✔︎ 「自社の苦労」「社員の熱量」──
それを語る前に、まず「顧客にとってのメリット」を伝えよ。

そもそも、CMの目的は次の3つしかない。

1. 認知度を上げること
2. 営業をラクにすること
3. そして、売上を伸ばすこと

──この3つ以外に、CMの存在理由はない。

にもかかわらず、
多額の広告費を使って“自社の内輪話”を美化し、自己陶酔に浸った映像を
垂れ流しているのなら──そのCMは、ただの“自己満足コンテンツ”だ。

社員の熱量や自社の苦労は、広告で伝えるべきものではない。
広告で伝えるべきは、情熱ではなく──
「自社はどんな価値を提供できるか」であるからだ。

CMはそのためのツール(道具)だ。
顧客にとっての価値を明確に伝え、心を動かし、最終的には財布を開かせる──
それができてはじめて、CMは“ビジネスの武器”として機能する。

いまこそ思い出せ。広告とは「自社の熱量を語るもの」ではなく、
「顧客視点の戦略で作るもの」だという、ビジネスの大原則を。
そして、その“戦略広告”を牽引する第一人者に──あなた自身がなるのだ。

広告で“社員の想い”をアピールしても、顧客は動かない。
動くのは──“顧客にとっての価値”が明確に伝わったときだけである。