もしあなたが──
レゾナックのCM、好きだな。認知度も売上も、きっと右肩上がりだろう」
「人気俳優・滝藤賢一を起用した時点で、あの会社の成功はもう決まっていた」
「レゾナックの“技術愛”が伝わってきて、グッときた。次のシリーズも楽しみだ」

──などと感じているのなら、今すぐその“ズレた認識”を改めよ。
その感覚は、あなたの会社を静かに、しかし確実に、蝕んでいく毒である。

そもそも、広告の良し悪しは、好き嫌いで決めるものではない。
ましてや、俳優の知名度や演技力だけで、広告の成果が決まるほどこの世界は甘くない。
本当に問うべきは、「このCMが誰に、何を、どう伝えているか」──その一点に尽きる。

その基準で見れば、材料大手レゾナックのあのCMは──明らかに、失敗だった。
問題はただひとつ──「伝える内容が多すぎた」。
その時点で勝負は終わっていたのだ。

問題の本質は、滝藤賢一の演技でも、セリフのマニアックさでもない。
致命的だったのは、「1広告=1製品」という基本原則を、
経営陣が軽視してしまったことである。

彼らの判断ミスによって、広告費は浪費され、成果も生まれない──
そんな“売れないCM”が出来上がってしまったのだ。

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「全部アピールすれば、全部伝わる」は幻想である

レゾナックのCMに出演しているのは、人気俳優・滝藤賢一。

高い演技力と圧倒的な存在感──その起用自体は、決して間違いではなかった。しかし、
その彼に5製品を一度に紹介させた時点で、CMとしての焦点が完全にぼやけてしまった。

製品1. 銅張積層板
製品2. 感光性絶縁材料
製品3. 感光性ドライフィルム
製品4. ダイボンディングフィルム
製品5. CMPスラリー

……視聴者の誰が、これらすべての情報を、たった30秒で理解できるというのか?

これはもう、戦場で5丁の銃を一斉に構え、
どこにも狙いを定めず空に向かって撃ちまくるようなものだ。

的がなければ、弾はただ消えるだけ。
結局、どの製品の訴求も響かず、投入した広告費はほぼ無駄になる──
まさに“成果なき消耗戦”である。

広告とは本来、
「ひとつの製品の魅力を、狙うべき顧客に的確に届ける」ための営業装置だ。

しかし、このCMには“誰に向けて撃つのか”という的も、
“何を伝えるのか”という狙いも、一切存在していない。

これでは、ただの“自己満足CM”である。
レゾナック経営陣が「うちの技術、スゴイだろ?」と自己アピールするだけの、
独りよがりな映像作品に過ぎない。

こうした設計ミスを、俳優の演技力でカバーできると思ったのなら、それ自体が誤算だ。
滝藤賢一がどれだけ真剣にセリフを覚え、完璧に演じたとしても──
そもそもの“伝えるべき内容”が破綻していれば、その努力のすべてが無駄に終わる。

1広告=1製品。これが広告の鉄則だ。

レゾナックの経営陣が、
「自社が誇る優れた材料を、もっと多くの人に知ってほしい」
──そう思った気持ちは、十分に理解できる。

「うちには、シェアNo.1の製品がこんなにある!せっかくだから全部紹介しよう!」
──そんな熱意にあふれた声が、社内会議で飛び交っていたとしても、不思議ではない。

だが、その“まっすぐな情熱”こそが、広告の成果を損なう最大の落とし穴なのだ。
結果として生まれるのは──
何ひとつ売れず、ただコストだけが吸い込まれていく「ブラックホールCM」。

ここで思い出すべきなのが、広告における基本原則である。
それは──“1広告=1製品”という、マーケティングの土台となるルールだ。

この原則を無視して、たった30秒の尺に5つの製品を詰め込んだらどうなるか?
各製品の強みも、差別化ポイントも、自社の優位性も──何ひとつ伝わらない。

そもそも──広告が伝えるべき情報は、
視聴者が製品の価値を正しく理解するための「材料」でなければならない。

しかし、あれもこれもと盛り込みすぎれば、その情報は「伝える材料」ではなく、
視聴者の思考を妨げる“騒音”になってしまうのだ。

ここで、改めて自問してほしい。
5つの製品すべてを、同時に必要としている顧客が、果たして存在するのか?
──答えは、明白だ。NOである。だからこそ、本来あるべき構成はこうだった。

✔︎ 銅張積層板の広告を1本
✔︎ 感光性絶縁材料の広告を1本
✔︎ 感光性ドライフィルムの広告を1本
✔︎ ダイボンディングフィルムの広告を1本
✔︎ CMPスラリーの広告を1本

──それぞれの製品ごとに、用途やターゲットを明確にし、
個別に制作すべきだったのである。

にもかかわらず、これらすべてを1本の30秒CMに詰め込み、「売上アップ」を
狙ったのだとしたら──それはもう、広告の名を借りた無謀な“賭け”でしかない。

マーケティング専門家である私(田中レジナルド)でさえ、
「1本のCMで5製品を同時に売ってくれ」などと依頼されたら──即座にお断りする。

なぜなら広告は、伝える対象をひとつに絞ることで初めて、
視聴者の判断に影響を与えられるものだからだ。

広告は製品カタログではない。
技術紹介ビデオでも、社長のあいさつ映像でもない。

広告とは──顧客の“購入判断”を後押しするために設けられた営業装置なのだ。
この本質を理解しなければ、あなたがどれほど手間とコストをかけたとしても、
成果には結びつかない。

「あれもこれも」は、“何も売れない”への片道切符である

今こそ、自社の広告戦略に携わるあなた自身が、しっかりと気づくべき時だ。
経営者の「よくばり」が、知らぬ間に会社の未来を静かに蝕んでいるという現実に。

「せっかくCMを作るんだから、うちの製品を全部紹介しよう」──
その一言が、すべてを中途半端にし、
誰の記憶にも残らない“印象ゼロの広告”を生み出している。

そして今、あなたのCMは──
成果に結びつくどころか、自社の大切な資金を、ただ浪費し続けている。
同時に、社内の貴重な時間と労力も、成果に結びつかない作業に費やされ続けている。

もう、気づかなければならない。
「1広告=1製品」──
この基本原則を迷いなく実行できる経営者のもとにしか、売れる広告は生まれない。

では、いま何をすべきか?
ここであなたの会社が即座に実行すべき「4つの鉄則」を提示する。

鉄則1. 一製品に絞った広告を作れ
鉄則2. 最初の5秒で「誰に向けたCMか」を明確に示せ
鉄則3. その製品が「誰の・どんな課題を」解決するのか、具体的に伝えよ
鉄則4. CMのラストでは、俳優に「問い合わせはこちら」と言わせ、視聴者の行動を引き出せ

これらの基本を無視した結果、何が起きたか?──その象徴が、レゾナックのCMである。

レゾナックの“へっぽこCM”を誕生させたのは、滝藤賢一ではない。
彼にあの“詰め込み台本”を読ませる判断をした経営陣こそが、すべての元凶だったのだ。

最後に、はっきりと言おう。

今こそ、広告を「売上を生み出す武器」として、根本から見直すべきときだ。
マーケティングを軽視する経営は、時代遅れであり、
広告の原則を理解していない企業に、未来はない。

レゾナックの失敗を、ただの笑い話で終わらせてはいけない。
彼らの迷走を教訓とし、自社の広告を「成果につながる仕組み」へと進化
させられるかどうか──それが、今後の明暗を分ける決定的な分岐点となる。

そしてそれこそが──競争の激しい半導体市場で、
あなたの会社が勝ち続けるための唯一の経営戦略なのだ。