もしあなたが──
「うちのエース社員に、業績が悪い部門を立て直させよう」
「苦戦中の事業に、優秀な人材を配置すれば、いずれは黒字化できるはずだ」
「好調な部署には、そこそこの人材をおいておけば問題ないだろう」

──そう考えているのなら、あなたの会社はすでに“負け確定ルート”に突入している。

その発想は、最も優秀な人材を“負け試合の穴埋め要員”として扱う発想に他ならない。
あなたがやっているのは、自軍のエースピッチャーを、
10点差で負けている試合の終盤に登板させているようなものだ。

まず、はっきりと言っておく。
あなたの会社のエース社員は、
崩壊寸前の部署を引き受けて立て直す“経営の神様”ではない。

ましてや、沈みゆく船の船長でもなければ、
バケツを持って水を掻き出す水汲み係でもない。

エース社員の役割は──すでに順調に進んでいる事業の「加速装置」となることだ。
帆を張り、風を受け、組織をさらに前進させる。それが彼らにふさわしい任務である。

だからこそ、断言する。
あなたの会社で最も優秀な社員には──“最も簡単な仕事”をさせよ。

難しい仕事に挑ませることが、会社にとっての価値になるとは限らない。
価値とは──確実に成果が出る場所で、その成果を最大化することである。

では、その“確実に成果が出る場所”とはどこか?
それは──あなたの会社の中で、すでに最も成果を出している部署だ。

“負け戦”にエース社員を送り込むな

なぜ、最も優秀な社員には、“最も簡単な仕事”をさせるべきなのか?

──その答えは、極めてシンプルだ。
「簡単な仕事」のほうが、売上を伸ばすのが圧倒的に簡単だからである。

要するに──
すでに勝っている場所に全戦力を集中させたほうが、
売上は確実に上がるということだ。

反対に、以下のようなフィールドは──すべて“負け確定”である。

・業績の悪い事業を立て直す
・シェアが取れていない分野を攻略する
・まだ顧客が存在していない市場に挑戦する

これらは勝算の低い戦場だ。
そのため、優秀な人材の時間と能力を、“負け試合”に賭けるのは愚の骨頂である。
そして──そうした難所で勝とうとするのなら、次の3つの武器が必須だ。

✔︎ 市場構造と顧客心理を読み解く、マーケティングのスキル
✔︎ 実行可能なレベルにまで落とし込まれた、精密な戦略設計
✔︎ オンライン・オフラインを問わず、施策をやり切る実行力

──これらがフルセットで揃っていなければ、勝負の土俵にも立てない。

だが、あなたの会社にそれは揃っているだろうか?

マーケティングを「戦略」ではなく、「テレビCM」や「パンフレット制作」、
「展示会出展」程度にしか捉えていない企業が、 
競争の激しい市場で成果を出せるはずがない。

そもそも、考えてみてほしい。
今のあなたの会社に、「マーケティングとは何か」と聞かれて、
正確に答えられる社員が──果たして、1人でも存在するだろうか?

優秀な社員を“勝ち戦”に投入せよ

ならば、どうすればいいのか?
答えはシンプルだ。

優秀な人材は、社内で最も業績の良い事業部に配置せよ。
そして──今すぐ以下を実行せよ。

業績の悪い事業は潔く手放せ。即刻、撤退せよ。

赤字部門にリソースを投入してはならない。
炎上している現場に、“エース社員”を送り込むのは愚の骨頂だ。

それは救助ではなく──社長による“公開処刑”である。
火の手が上がっているなら、迷わずその事業から手を引け。

「弱みを改善しようとする発想」こそ、経営者が陥りがちな落とし穴だ。

弱みに注力しても、売上はほとんど伸びない。
あなたがやるべきは──強みを伸ばすことだけに集中し、そこにすべてを賭けることだ。

ニッチ市場で1番になれる可能性のある場所に、全人材・全資金を注ぎ込め。

あなたの会社の強みが発揮される分野。勝ちパターンが再現できる業界──
市場規模が小さくても構わない。「勝てる場所」で、「勝ち続ける」ことに集中せよ。

これ以外の選択肢は、すべて“自己満足の経営ごっこ”にすぎない。
社長の仕事は「挑戦すること」ではない。「勝ちを確定させること」である。

経営とは、“どこに誰を置くか”のゲームである

優秀な社員を、収益の見込めない事業に配置してはならない。
それは、精密なスナイパーに、竹やり1本で突撃を命じるようなものだ。
狙撃手に求められるのは、無謀な“突撃”ではなく、狙いを定めた“命中”である。

本来、彼らにやらせるべきことは──
沈みかけた船で必死に水を掻き出すような“延命作業”ではない。

すでに風を受けて順調に進んでいる船に帆を張り、
そのスピードをさらに加速させること──
それこそが、優秀な人材を本来の役割で活かすということだ。

優れた人材を、もっとも成果が出やすいポジションに適切に配置すれば、
組織は少人数でも、想像を超える成果を上げることができる。

経営者に求められるのは、そうした人材の力を、
成果が見込める場で最大限に引き出すことである。

つまり、優秀な人材を、“その場しのぎの補強要員”として使い回すのではなく、
企業成長を支える“中核戦力”と見なし、戦略的に配置することが求められているのだ。

だからこそ──彼らの能力は、「勝てる場所」に集中させなければならない。
崩壊寸前の現場に「あとは任せた」と送り込むような判断は、絶対にしてはならない。
それは希望に賭けた決断などではなく、責任を放棄した経営者の敗北宣言に他ならない。

適切な人材配置こそが、社長に求められる最も重要な戦略である。
「どこで、誰を、どう活かすか」──それが、経営の本質であり、
令和の半導体経営者にとっての「正しい兵力の使い方」なのだ。