もしあなたが──
「うちの社員は行動指針をしっかり理解しており、それを誇りにしている」
「朝礼で経営理念を毎日唱和している。その繰り返しが、社員の団結を生んでいる」
「ホームページに経営理念と行動指針を載せておけば、会社は自然と成長していく」
──そう信じているのなら、今すぐその“おめでたい幻想”を捨ててほしい。
まず、はっきりと言おう。
社員の目標が曖昧なままでは、組織はどれだけ頑張っても成果につながらない。
これは、マーケティングが機能しない企業に共通する“根本的な欠陥”である。
多くの企業がうまくいかないのは、「目標を持っていないから」ではない。
むしろ、目標そのものは掲げられていることがほとんどだ。
問題は、それが現場の具体的な行動にまで落とし込まれていないことにある。
だからこそ言いたい。
社員は、理念やスローガンといった抽象的な言葉だけでは動かない。
人は、“何をすればいいのか分からない指針”には従えない。
行動に落とし込めない理念は──もはや宗教と変わらない。
では、なぜ多くの企業は“抽象的な言葉”で社員を動かそうとしてしまうのか?
その理由は、極めてシンプルだ。
社員が「何を」「いつまでに」「どの水準でやるべきか」──
それらの目標をはっきりと言葉にして伝えるべき経営者が、
その責任を果たしていないからである。
ミネベアミツミの行動指針の問題点
たとえば──
元卓球日本代表・石川佳純のCMでも知られる、
ミネベアミツミ株式会社の「社員行動指針」を見てみよう。
その一節には、こう書かれている。
「お客様の信頼を得なければならない」──立派な言葉だ。誰もがうなずく正論である。
だが、これが果たして“社員の目標”と言えるだろうか?
答えは明確だ。NOである。
なぜなら、それを読んだ社員の頭の中に、
「具体的に何をすればいいのか?」というイメージがまったく湧かないからだ。
おそらく彼らは、毎朝この指針を朝礼で大声で唱えているのだろう。
しかしその直後、心に残るのはただ一つ──
「で、今日の俺は何をすればいいんだ?」という、漠然とした疑問だけだ。
なぜ、そんな事態に陥ってしまうのか?
それはこの指針──「お客様の信頼を得なければならない」──に、
「何を」「いつまでに」「どの水準で」といった、
行動に結びつけるための具体的な基準が、何ひとつ示されていないからである。
つまり──社員の行動に直結しない指針は、“目標”とは呼べない。
それは単なる“耳ざわりのいい言葉”にすぎず、
現場での行動を何ひとつ導かない、機能しないスローガンでしかない。
「理念を掲げただけ」では、社員は動かない
どれだけ立派な理念を掲げても、それだけで会社が前に進むことはない。
多くの経営者が「理念はきちんと伝えている」と安心しているが、
現場の行動に結びついていなければ、それは“伝えたこと”にはならない。
では、どうすればよいのか?
答えは、至ってシンプルだ。
抽象的な理念は、“ホームページに載せておく程度の飾り”で構わない。
いや、むしろホームページに「だけ」載せておくべきだろう。
問題は──その理念が、現場での“具体的な行動”に落とし込まれていないことにある。
たとえば、ミネベアミツミの社員行動指針にある
「お客様の信頼を得なければならない」という一文。
この抽象的な表現を、現場の業務で実行可能な
「具体的目標」に変換してみると、以下のようになる。
✔︎ 2027年12月末までに、顧客満足度を70%から80%に引き上げる
✔︎ 2ヶ月に1回、全12ページのニュースレターを全既存顧客に郵送する
✔︎ 毎月1回、全顧客の声をフィードバックシートで回収・分析する
これこそが、現場の社員がすぐに理解し、
そのまま行動に移せるレベルにまで落とし込まれた“実践可能な指針”だ。
このように、理念を現場で機能する行動レベルにまで翻訳してはじめて、
社員は「自分は何をすべきか」を明確に理解し、実際に動くことができる。
つまり、理念と現場の間をつなぐ“具体的な目標設計”こそが、
組織を動かす原動力となるのだ。
ところが、こうした仕組みが欠けている企業は非常に多い。
実際、マーケティングや営業がうまくいかない企業には、ある共通点がある。
それは──経営者が理念を掲げただけで「仕事をしたつもりに
なっている」という、極めて危うい自己満足に陥っていることだ。
理念やスローガンを掲げておけば、現場が自然と動くだろう──
そんな期待だけで、実際には「誰が何をするのか」が何ひとつ決まっていない。
当然ながら、そこからは何も生まれない。現場にも変化は起こらない。
その結果、行動指針は形骸化し、
誰からも意識されない“名ばかりの言葉”と化してしまう。
では、どうすれば、社員の行動を確実に引き出すことができるのか。
必要なのは、現場が迷わず動ける「明確な道筋」を示すことである。
行動とは、「目標」と「期限」がセットで定義されたときに、初めて生まれる。
だからこそ──経営者は、「何を・いつまでに・どの水準でやるか」を、
明確な言葉にして示さなければならない。それこそが、すべての始まりなのだ。
理念を行動に変えるのが、経営者の仕事である
社員が思うように動かない──
そう感じたとき、見直すべきは「社員の姿勢」ではない。
問われているのは、経営者であるあなた自身の“伝え方”と“目標の示し方”である。
経営者としての本来の使命は、理念を語ることそのものではない。
重要なのは、それを現場で実行可能な「行動」に落とし込むことだ。
実際、志の高い理念を掲げる経営者は多い。
「行動指針を意識して働け」と社員に気合いを入れる経営者も少なくない。
しかし、その理念が
日々の業務における行動レベルにまで言語化されているか──
そう問われれば、多くの経営者がその答えに窮するのが現実だ。
あらためて確認しておきたい。
マーケティングとは、広告でも、ブランディングでも、DXの導入でもない。
それは「目標を明確に定め、社員が迷わず動ける仕組みをつくること」にある。
いま一度、立ち止まって考えてみてほしい。
「自社には、それなりの製品やサービスがあるのに、なぜ成果が出ないのか?」
理由はシンプルだ。
あなた自身が、社員に「何を・いつまでに・どの水準でやるべきか」を
明確に伝えていないからである。
だからこそ、次の問いを自分に投げかけてほしい。
あなたの会社の行動指針──
社員はそれを聞いて、「では自分は何をすればいいのか」を即答できるだろうか?
もし答えられないのであれば、
それこそが、あなたが真っ先に取り組むべき“経営の本質的課題”である。