もしあなたが──
「応募が少ないのは、給与や福利厚生といった条件が弱いせいだ」
「求人広告を増やせば、応募も増え、優秀な人材が来るはずだ」
「仕事内容が“楽そう”に見えれば、今どきの若者が食いつくだろう」
──そう信じているのなら、今すぐその思考を叩き壊せ。
中小半導体企業が、採用でつまずき続けている最大の理由──
それは、まさに今あなたが信じているその考えにある。
そして、その誤った思考がもたらすのは、人材の“質”の崩壊である。
・条件だけで応募してくる“転職中毒”の人間
・会社の理念やビジョンには一切無関心な人間
・面接で目を見て話せず、“なんとなく応募しただけ”の人間
そんな人材ばかりが社内に集まったら、会社はどうなるか?
現場は“人材のゴミ屋敷”と化す。
本当に必要な人材の声はかき消され、志ある社員は疲弊し、やがて会社を去っていく。
残るのは、“言われたことしかやらない人間”と“文句だけ言う人間”だけだ。
「求人への応募者数が増えれば、採用がうまくいく」──
その幻想こそが、あなたの会社を内側から静かに食い潰す“毒”なのである。
目次
中小企業にとって「応募数」は毒である
たしかに、広告費を突っ込めば応募は増える。
求人メディアに金を流し込めば、
掲載順位は上がり、応募ボタンを押す人間も増える。
だが──
それと引き換えに、あなたの会社にやって来るのは次のような連中だ。
✔︎ 志望動機が空っぽ。履歴書がテンプレートそのまま
✔︎ 給与と休みだけ見て飛びつく“転職常習者”
✔︎ 面接ドタキャン。遅刻。無断欠席。連絡すら寄越さないダメ人間
つまり、“数”を追い始めた時点で、採用の“質”は崩壊する。
たとえるなら、それは──
夏の夜、明るい電灯に群がる虫のようなものだ。
光(=好条件)を強くすればするほど、集まってくるのは──
“その光の意味”を理解せず、ただ反応的に飛びつく虫たちだ。
つまり、理念や仕事内容ではなく、目先の条件にだけ反応する人間たちである。
彼らはあなたの会社の理念にも、社会的価値にも、未来にも興味がない。
興味があるのは──「今月の給料」と「残業時間」だけである。
中小企業の採用活動は「時間泥棒」との戦いである
あなたは──
1人の応募者に、どれだけの時間を使っているかを
正確に把握しているだろうか?
✔︎ 履歴書・職務経歴書・エントリーシートの精査 → 1時間
✔︎ 面接の準備・実施 → 3時間
✔︎ 社内での共有・報告・判定会議 → 1時間
合計すると、実に5時間を奪われている計算になる。
しかもこれは、「不採用になるかもしれない人間」への投資時間である。
つまり、“見込みの薄い1人”に5時間を費やしているということだ。
これが10人ともなれば、合計50時間が失われる計算になる。
しかも、そのうち9人は──明らかに「採ってはいけない人材」である。
さらに厄介なのは──
応募者が増えるたびに、その50時間が“確実に奪われている”にもかかわらず、
多くの半導体企業がその事実に気づいていないことだ。
中小企業では、大企業のような専任の採用チームはまず存在しない。
営業もやる、総務も見る、時には経理や広報、社長業まで担う──
そんな“何でも屋”が、片手間で採用を回しているのが現実だ。
そんな現場で、
「地雷候補者」に時間を吸い取られ続ければどうなるか?
優先すべき本業が遅れ、現場が疲弊し、組織全体が崩壊していく。
これは単なる“時間の浪費”ではない。
経営資源の漏洩であり、組織疲弊の入り口である。
そして、最悪の結末がやってくる。
「もう誰でもいいから採ろう」──
その瞬間、あなたの会社は自ら“採用の自爆ボタン”を押すことになる。
なぜ「条件推し」は“質の低下”を引き起こすのか?
ここで、あるビジネススクールが受講生を募集した際の実例を紹介しよう。
講座料金は同じく10万円。だが、募集方法を以下の3通りに分けた。
募集1:10万円払って受講──ただそれだけ。
募集2:10万円払って受講──ただし、稼げなければ全額返金。
募集3:10万円払って受講──ただし、稼げなければ100万円返金。
──結果はこうだ。
応募数は──「1<2<3」。条件を甘くするほど、反応は増えていった。
だが一方で、応募者の“質”は──「1>2>3」。条件を甘くするほど、劣化していった。
特に3に至っては、身だしなみ、マナー、常識──すべてが崩壊した応募者が多数。
中には「金さえもらえれば何でもいい」と言わんばかりの態度を取る者まで現れた。
この事例が物語っているのは、非常にシンプルな現実である。
「条件」で釣れば釣るほど、“条件にしか興味のない人間”が集まる。
つまり、モラルなき応募者、理念なき労働者が、
平然とあなたの会社の門を叩くようになるのだ。
条件で来た人材は、条件で去る
よくある求人の見出し──
「給与が高いです」
「女性に優しい職場です」
「中小ではトップクラスの福利厚生をお約束します」
一見するとポジティブなアピール。
だが実態は、ただの“甘言(あまいことば)”にすぎない。
そして、その言葉に釣られて集まるのは──条件だけで働く人間である。
辞める理由も条件。
不満を言う理由も条件。
入社の動機すら条件。
こういう人材は、
会社の理念にも、使命にも、ビジョンにも──
何一つ共感していない。
結果、どうなるか?
少しでも条件の良い会社が現れれば、ためらいもなく去っていく。
そしてあなたの会社は──
また求人を出し、また時間を奪われ、そしてまた疲弊していくのだ。
本気の採用は「ハードルを上げる」ことから始まる
とある有名企業は、自社の応募者の“質の悪さ”に業を煮やし、
応募方法に──あえてFAXを組み込んだ。
スマホ・パソコンが当たり前のこの時代に、
わざわざFAXでエントリーさせる手間を加えたのだ。
当然、応募者は激減した。
だが残ったのは、「それでも入社したい」と強い意志を示す人材だけだった。
その結果──
採用担当者の負担は激減。エントリーシートの質が上がり、
面接での受け答えや議論の内容も格段に濃くなった。
この事例が突きつけている教訓は、ただひとつ。
採用の質を高めたければ、あえてハードルを上げよ。
中小企業が取るべき戦略は、応募数を稼ぐ“消耗戦”ではない。
求職者に好条件を提示するのではなく、
容赦のない応募ハードルを課す“逆張りの採用戦略”である。
「数」ではなく「覚悟ある1人」を狙え
中小半導体企業がつまずき続ける原因は、
「応募数」だけを追い求める採用にある。
その幻想を、今すぐ断ち切れ。
✔︎ 待遇や“甘さ”で人を集めようとするな
✔︎ 質の悪い応募者を“ふるい落とす仕組み”を作れ
✔︎ 狙うのは「自社の理念に共感するたった1人」だ
採用もまた、立派なマーケティングである。
問題は、「何(好条件)を提示するか?」ではない。
「誰(採用すべき人材)に自社理念を訴えるか?」である。
あなたの会社に本当に必要なのは、“応募数”ではない。
必要なのは、履歴書の数ではなく、条件に釣られた群れでもなく──
未来を共に創る覚悟を持つ、たった1人の人材なのだ。
だからこそ言う。
大切なのは応募者の“数”ではない。
質を上げたければ、応募のハードルを上げろ。
そして、“覚悟ある人材”だけを呼び込め。
それが、中小半導体企業が競争を生き抜き、
未来を切り拓くための唯一の道なのである。