もしあなたが──

「旧製品の在庫は割引価格で売ってしまおう。新製品の置き場が足りない」
「旧製品はもう役に立たない。セール価格で売って、販促費にでも回した方がいい」
「とにかく安くばらまいて、使ってもらえさえすれば自然と評価されるだろう」

──そんなふうに考えているのなら、今すぐその思考を捨て去れ。

あなたの未来を阻む最大の敵は、競合でも価格競争でも、新技術の台頭でもない。
本当に恐れるべきは──
倉庫の奥で静かに膨れ上がっている、“売れ残りの旧世代品”たちである。

在庫というものは、見せ方次第で「供給の安定性」や
「導入実績」「信頼の証」として活用できる武器になり得る。

だが──
一歩でも扱いを誤れば、その在庫は企業の信頼を食いつぶし、
価格競争の泥沼へ引きずり込む“引火性のリスク”に変貌する。

引火のきっかけは、顧客の口から漏れるたったひと言だ──
「あれ?この会社、旧製品の在庫、かなり余ってないか?」
顧客に“それ”を悟られた瞬間、あなたの戦略のすべてが崩れる。

新製品の成功は「旧製品の処分の仕方」で決まる

新製品の販売──
それ自体は、企業にとって大きなチャンスである。
技術者たちの知恵と努力の結晶を市場に投じ、未来を切り拓こうとする“賭け”でもある。

しかし、その栄光の裏側で、避けて通れない現実が横たわっている。
それが、倉庫に積み上げられた“旧製品の在庫”という厄介な問題だ。

新製品を打ち出したところで、旧製品の問題が自動的に消えることはない。
むしろ──旧製品をどう扱うかこそが、新製品の評価を大きく左右する。

ここで、ハッキリと言おう。
“在庫処分”という言葉を口にした瞬間、あなたの会社は信用を失う。
なぜか? その瞬間、顧客の頭の中には次のような疑念がよぎるからだ。

「在庫セール?相当売れてなかったんだな」
「在庫が残っている=性能に問題があったのでは?」
「そんな会社の“新製品”、本当に信頼できるのか?」

つまり、旧製品を「処分品」として扱った時点で、
顧客の心に、“この会社は大丈夫か?”という不信感が芽生える。
その結果として何が起きるか?

✔︎ 新製品に対する期待はしぼみ、不安が膨らむ
✔︎ 営業チームは「疑念の払拭」に時間を奪われる
✔︎ 相見積もりに引きずり出され、結局は価格競争に巻き込まれる

──これは、単なる戦術ミスではない。
「在庫の見せ方」を誤ったことから始まる、企業全体をむしばむ悪循環である。

ただの安売りを、意味ある販売に変える方法

では、どうすべきか?答えは、ただ1つ。

「旧製品の在庫を捌いている」と思わせるな。
「旧製品のキャンペーン販売」だと思わせよ。

✔︎ 自社の創立記念日に合わせた“感謝セール”として、装置用バルブを20%引きで販売
✔︎ 半導体メーカー向けに設定した“啓蒙週間”として、自社薬剤を特別価格で販売
✔︎ SDGs週間にちなんだ“省エネモデル特集”として、省電力の製造装置を割引価格で販売

──キャンペーンを実施する「理由」は何でも構わない。

大切なのは『売れ残ったから仕方なく安くする』ではなく、
『理由があって安くする』という見せ方に切り替えることだ。

同じ旧製品でも──
「処分価格」と言ってしまえば、
旧製品の格を落とすだけでなく、新製品までもが“安物扱い”される。

「創立記念価格」と表現すれば
顧客の関心を旧製品の“特別感”に向けさせ、
新製品の性能や信頼性に疑念を抱かせないことができる。

「技術継承モデル」と打ち出せば
旧製品が“信頼の象徴”となり、場合によっては、
実績の乏しい新製品を上回る評価を得ることができる。

こうして、旧製品のセールに“理由”を与えるだけで、顧客の受け止め方は一変する。

たとえば──
あるアメリカの中小企業は、倉庫に余っていた5,000台の電卓を
「在庫一掃セール」ではなく「ハロウィンキャンペーン」として販売した。

結果、5,000台の在庫は全て売り切れ、利益も十分に確保できた。
しかし、それ以上に重要だったのは、
自社の“格”を一切落とさずに売り切ったという事実である。

理由なき値引きは、ただの安売りだ。
そしてただの安売りは──
製品の価値だけでなく、会社そのものの信頼を毀損する。

愚かな在庫処分か、賢い戦略的販売か?

旧製品の在庫をどう扱うか──
ここで最も避けるべきは、安易に“在庫処分”という言葉を使うことだ。

決算前の帳尻合わせで投げ売りをすれば、
製品そのものへの信頼を失うだけでなく、企業全体の信用すら損なう。
それは、保身と見栄にとらわれた愚かな経営者のやることだ。

もちろん、旧製品の在庫を減らすことは必要だ。
しかし、その行為自体を目的にしてはならない。
重要なのは、在庫を減らしながらも、信頼を築く売り方に変えることだ。

旧製品は“売れ残ったから安く売ります”ではいけない。
「記念」「感謝」「啓蒙」といった名目を与え、
顧客の目に“意味ある選択肢”として映るように仕立てよ。

ゆえに、以下を徹底する必要がある。

旧製品は売れ。
価格を下げるなら、必ず“理由”とセットにせよ。
決して、“処分品”として売ってはならない。

滞留在庫を悟られるな。
悟られた瞬間、新製品まで安物に見える。

だからこそ、半導体社長に課せられているのは「戦略的な在庫処理」なのだ。
そしてそれは、新製品を市場に根付かせ、未来の収益基盤を築くための、
唯一にして最重要のマーケティング戦略である。