もしあなたが──

「徹底的なリサーチは、製品販売後のリスクを減少させる」
「半導体商社マンの最初の仕事は、市場調査会社と契約することにある」
「ビジネスはリサーチがすべて。市場調査こそがマーケティングだ」

──そう信じているのなら、今すぐその考えを改めよ。

なぜなら、
「まず調査してから売る」と考えている時点で、
市場の主導権は、すでに敵の手中にあるからだ。

競合は、あなたの準備を指をくわえて待っていてはくれない。
彼らはとっくに製品を作り、見込み客と接触し、反応を探り、改善を始めている。
つまり──あなたがパワポをいじっている間に、敵は市場を支配し始めているのだ。

調査に時間をかけているあなたをよそに、競合は市場との接点を何十回と重ねている。
商談の場数、顧客からのフィードバック、改善のサイクル……すべてにおいて差が開く。
そして、その差は数ヶ月後、あなたを市場の周回遅れにする決定的な溝となって現れる。

市場は、スピードの遅い企業を容赦なく潰す。
そして真っ先に消えるのは、慎重に準備を進めた“つもり”の企業である。
売る前に調査しすぎた企業が、市場で成功した事例など──存在しない。

そもそも、リサーチは「仮説」でしかない

「まずリサーチで顧客のニーズを探ってから、製品を作る」──
もし、あなたがそう考えているのなら、それは30年前のやり方だ。

とくに半導体業界では、多くの顧客が、
自社に本当に必要な製品や技術を正確に把握できていない。

たとえば──
あなたが調達担当者に「このような製品、あったらどうですか?」と
尋ねたところで、「それ欲しいです」と即答されることは、まずない。

なぜか?

あなたが開発しようとしている製品が、
自社の性能向上やコスト削減につながるというイメージを、
彼らが描けていないからだ。

仮に、心のどこかで「それ、良さそうだな」と思っていたとしても──
見ず知らずのリサーチ会社からの電話1本で、本音を語るわけがない。

当然、リサーチ会社のレポートにはこう書かれる──
「御社製品に対するニーズは確認できませんでした」

だが、それは──売っていないから、反応が得られなかったにすぎない。
つまり、顧客が製品を評価できる状況を作っていなかった──それだけのことだ。

あなたが広告を出せば、
営業をかければ、
ウェビナーで紹介すれば──そのとき初めて、顧客は興味を示し、反応する。

市場の本音は、“その製品がある”と認識した者の口からしか出てこない。

リサーチ会社に何百万円払って、業界関係者1000人に聞いても答えは出ない。
それよりも、あなた自身が動き、新製品を市場にぶつけよ。
それが、最も早く、最も確実な“市場の答え”である。

クライスラーのオープンカーは、わずか数時間で誕生した

たとえば、こんな話がある。

1980年代初頭、米クライスラー社の会長であったリー・アイアコッカ
(1924年10月15日-2019年7月2日)が、工場を視察していたときのこと。

作業員の一人が、彼にこう提案した。
「この車、オープンカーにしたらカッコいいと思います」

それを聞いたアイアコッカは、即決した。
「よし、屋根を切り落としてくれ。女性が振り返るか試そう」
そう言って、その作業員と一緒に車に乗り込み、街へと繰り出した。

するとどうだ──
彼らが街を走れば視線を浴び、駐車場では女性たちに囲まれ質問攻め。
彼らは、たった1台の試作品で、市場の反応を目の当たりにした。

通常なら、競合分析・市場トレンド・消費者インサイト──
それらのリサーチに半年、下手すれば1年かけるところだろう。
だが彼らは、わずか数時間で「需要がある」ことを掴んだ。

分厚い市場調査レポートも、仮説検証も必要なかった。
必要だったのは、“モノを作り、見せて、反応を観察する”──それだけだった。

これこそが、「市場を調査する」のではなく、
「市場に直接問いかける」マーケティングである。

机上の分析ではなく、現場の反応こそが真実を語る──
それが、このエピソードの本質だ。

いますぐ売れ。市場調査はせず、“顧客に聞け”

半導体企業の経営陣の多くは、マーケティングの出発点を勘違いしている。
「まずは市場調査レポートを読むこと」──
それがマーケティングの第一歩だと思い込んでいるのだ。

しかし、本当のスタート地点はそこではない。
やるべきは、“製品(サンプル)を作り、市場に出して反応を見ること”だ。

✔️ ホームページで案内せよ。
✔️ 既存の顧客に声をかけよ。
✔️ ウェビナーを開催し、反応を探れ。
✔️ 広告を回して、見込み客を獲得せよ。

そして──
売れなかったら、顧客の反応を分析し、次の一手をすぐに打て。
売れたなら、その成功パターンを再現せよ。
それこそが、最短で成功する唯一の方法だ。

あなたの会社には、リサーチ会社と契約している時間などない。
あなたが会議室で部下の報告を聞いている間に、
競合はサンプル製品を顧客に見せ、現場のリアルなデータを積み上げている。

だからこそ、言う。
今すぐ、市場調査をやめろ。

調査レポートを片手に
「僕、マーケティングやってます」と語る社員がいるのなら、
その社員を外に出し、実際の顧客と向き合わせろ。
顧客の前に立てない者は、「営業」の名を語る資格はない。

真のリサーチとは、現場に身を置き、顧客の反応を自らの肌で感じ取ることだ。
机上のレポートではなく、市場の中で試し、学び、修正を重ねること。

それこそが──
半導体企業にとっての最強のリサーチ方法であり、
競合に勝つための唯一のマーケティング戦略である。