もしあなたが──

「経営者の仕事は、自社の“弱み”を改善することだ」
「“弱み”さえ克服できれば、競合に勝てる」
「“弱み”がなくなれば、売上は自然に伸びていく」

──などと信じているのなら、
その思考こそが、あなたの会社を停滞させている“元凶”である。

まず最初に、はっきりと言おう。
弱みを直すな。そんな暇があったら、強みに全振りせよ。

経営資源には限りがある。
人材、資金、時間──どれも潤沢にはない。

ならば、
“中の下”を“中の上”に引き上げる努力に、
貴重なリソースを割いている場合ではない。

半導体企業が勝ち続けるには、「できること」をさらに尖らせ、
敵が絶対に真似できないレベルにまで磨き上げるしかないのだ。

そのため、そこには“バランスの良い経営”などという理想は、入り込む余地がない。
仮にそんな経営があるとしても──それは、平均点で満足している者の見ている夢だ。

そして、平均点に甘んじた会社は、競争が激化したその瞬間──
なすすべもなく、静かに沈んでいく。

弱みにリソースを注ぐほど、競争で不利になる

あなたの会社にも、必ず「得意なこと」があるはずだ。

それは──
他社には真似できない独自の製造技術かもしれない。
あるいは、特定業界に特化した製品開発のノウハウ。
もしくは、エンジニアリングプロセスを最適化する異常なまでのスピードかもしれない。

さらに言えば、
10年以上にわたって積み上げてきた顧客との信頼関係のように、
数字には表れにくい“目に見えない強み”もあれば、
限られた市場で築き上げた圧倒的なシェアのように、“目に見える強み”もあるだろう。

しかし、“弱み”の改善に乗り出したその瞬間──
これまで注がれていた“強み”への投資と集中力が、一気に途切れてしまう。

リソースは分散し、時間とエネルギーは削られ、
やがてあなたの会社は、かつての強みが曖昧な「凡庸な会社」へと変貌する。

それはまるで──
自分が得意な泳法をやめて、
苦手な泳ぎをゼロから練習し始めるようなものだ。

そんな状態で、本番を迎えたらどうなるか?

得意だった泳法はすでに鈍り、周囲には抜かれ、
練習中の泳法はまだ身につかず、まともに泳げない。
結果は、いいところなく予選敗退。惨敗だ。

なぜ、このようなことが起きるのか?

それは──あなたが“苦手”と格闘しているその時間、
ライバルたちは、勝てる領域で“得意”をさらに極め、
あなたとの距離を確実に縮めて(広げて)いたからだ。

インテルは「敗北」を選び、「勝利」への道を開いた

1985年、インテルはメモリー(DRAM)事業から撤退した。
理由はただ一つ──日本企業に完敗したからだ。

NEC、日立、東芝。
日本勢は価格、品質、量産体制、すべてにおいてインテルを圧倒していた。
努力では埋まらない差が、そこにはあった。

いくら改善を重ねても、
日本企業の“現場力”と“製造の統率力”には到底追いつけなかった。
インテル経営陣は気づいたのだ──この勝負に勝ち目はない。

そこで、彼らは決断した。
愚直な改善をやめ、「もう一度勝負を」といったプライドも捨てた。
“弱み”を克服するという戦いそのものから、降りたのである。

代わりに選んだのは──「勝てる場所」で、勝ち切る戦略だった。
これ以上、負けが決まった戦に、金も人も時間も費やす必要はない。
それが、インテルの冷静な経営判断だった。

やがて、ロジック(CPU)事業への全集中が始まった。
そして「Intel Inside」という大胆なブランド戦略とともに、
インテルはグローバルなPC市場で圧倒的な存在感を放つ企業へと変貌していった。

負けを認め、勝てる分野に経営資源を全投入する──
その大胆なシフトこそが、インテルを再び、“世界的企業”へと押し上げたのだ。

だからこそ、言い切れる。

「弱点からの撤退」は、“逃げ”ではない。
それは、敗北を認めて終わる経営ではなく、
「勝つために、見切る」という胆力の証明である。

今すぐ、弱みの改善をやめよ。さもなくば沈むだけだ

あなたの会社にも、必ず“勝てる分野”がある。
あるいは──市場シェア3位以内を狙える領域が、どこかに存在するはずだ。

それがまだ見えていないのなら、今こそ立ち止まって考えろ。

いま自社は、どの市場で、どんな顧客に選ばれているのか?
そこで得られている信頼・成果・強みは何か?
それらの現実を客観的に見極め、勝負をかけるべき一点を、迷わず選び抜け。

そして、核となる領域が見えたなら──
それ以外の事業・製品・プロジェクト・社内の“お付き合い仕事”に至るまで、
すべてを切り捨てる覚悟を持て。

「ここまでやってきたから」
「長年の付き合いがあるから」
「創業時の看板製品だから」
──そんな情や歴史を、経営判断の軸にしてはならない。

過去にこだわるあまり、弱点の改善に時間を費やしてはならない。
それは、平均点を目指すあまり、時代の変化についていけなくなり──
やがて静かに、しかし確実に沈んでいく企業の典型パターンだ。

日本企業には「改善こそ美徳」という文化が深く根付いている。
学校教育から職場、社会全体が、“弱点克服”を正義として教え込んできた。

だが──その価値観こそが、企業を“器用貧乏”に変え、
本当に勝てる強みを埋もれさせてきた元凶に他ならない。

私はこれまで、そんな企業が静かに、
そして確実に沈んでいく様を、何十社と見てきた。
彼らに共通していたのは、たった一つ──「何も捨てられなかったこと」だ。

“弱み”を直すのは、もうやめろ。
“強み”に全リソースを集中しろ。

これこそが──あなたの会社を“その他大勢”から抜け出させ、
選ばれる存在へと押し上げる、唯一のマーケティング戦略なのだ。