もしあなたが──
「将来を見据えるなら、設計領域にも進出すべきだ」
「競合と差別化するには、川上領域を押さえるしかない」
「これからの商社は、ODMに活路を見出すべきだ」

──そう信じているのなら、今すぐその幻想を捨てよ。

まず、断言しよう。
半導体製造企業や商社が、安易に設計ビジネスへ手を出すべきではない。
これは単なる提案ではない。絶対命令である。

川上領域への進出は、成長戦略などではない。
それは──自社の強みを手放し、リソースを分散させるだけの愚かな行為にすぎない。

確かに、周囲には「攻めの経営」と映るかもしれない。
挑戦的に見える。革新的にも見える。
だが、実態はまったくの逆だ。

それは、守るべき本丸を自ら手放す愚行であり、
まるでエースピッチャーが、登板前に自ら利き腕を傷つけてしまうようなものだ。

にもかかわらず──
多くの経営者は、こうした行為を「進化」や「挑戦」と言いたがる。

テレビや新聞といったマスメディアも、
それを「失敗を恐れないチャレンジ精神」として持ち上げる。

だが、それは進化でもなければ、挑戦でもない。
それは──経営の本質を見誤った者が下す、
見通しも戦略も欠いた無謀な決断にすぎない。

「似て非なる挑戦」が会社を危うくする

少し想像してみてほしい。
あなたがステーキ店を経営していて、順調な売上をさらに伸ばそうとしているとしよう。
そのとき、事業を拡大する手段として2つの選択肢がある。

ひとつは──店で提供する肉を自社でまかなうために、牧場ビジネスに乗り出すこと。
もうひとつは──これまでの飲食ビジネスのノウハウを活かして、
新たに天ぷら店を開業すること。

ここで冷静に考えてほしい。
なぜ、後者のほうが成功の確率が高いのか?

それは、表面上は別のことをしているように見えても、
実際にはビジネスとしての戦い方が変わらないからだ。
提供する料理は変わっても、商売としての仕組みや勝ち筋は同じなのである。

天ぷら店であれば話はシンプルだ。
揚げ方の技術を覚えれば、あとはこれまでに培ってきたマーケティング力、
接客力、スタッフ教育といった“商売の武器”をそのまま活かすことができる。
つまり、勝ち筋が見えている。今までの強みが、そのまま新事業にも通用する。

一方、牧場ビジネスはまったくの別物だ。
牛の飼育管理、飼料の調達、感染症対策、さらには畜産業に関わる法規制の理解──
求められる知識もスキルも、すべてがゼロからのスタートになる。

まるで、自分がまったく知らない競技のルールブックを、
いきなり渡されるようなものだ。

つまり、ステーキ店の延長では戦えない。
これまでの成功体験やノウハウが一切通用しない、完全に“別世界の勝負”になる。

──このたとえ話を、自社の経営に置き換えて考えてほしい。
なぜ、設計ビジネスに安易に手を出してはならないのか?

その答えは明快だ。
製造と設計は、「半導体」という同じ言葉で括られてはいるが、
実際にはまったく別のビジネスだからである。
ルールも勝ち方も、使う道具もまるで異なる、まったく別のスポーツだ。

製造ビジネスにおいて問われるのは──
✔︎ 設備投資
✔︎ 歩留まり
✔︎ 品質管理
✔︎ 量産の安定性

──といった、モノづくりにおける精度・再現性・現場オペレーションの総合力である。

一方、設計ビジネスに必要なのは──
✔︎ 高度な専門人材(国内での確保は困難)
✔︎ EDAツールを自在に扱うスキル(既存の製造スタッフには馴染みがない)
✔︎ 独自の設計技術(習得には膨大な時間と投資が必要)
✔︎ 高度なコミュニケーション能力(異なる業界・文化の技術者との連携が不可欠)
✔︎ 緻密なマーケティング戦略(営業主導型のモデルでは通用しない)

──こうした要素を、すべて揃えて初めて“参戦資格”を得られる世界である。

つまり、商社や製造企業が設計ビジネスに参入するということは、
自社の得意領域を離れ、
知識・資本・戦略のすべてで新しい競技に挑むことを意味する。

たとえるならこうだ。
重量挙げの選手が、ある日突然100メートル走に出場するようなもの。
筋力はある。体力もある。努力も惜しまない。

だが──競技が違えば、その筋肉がむしろ足かせになる。
スピードが出ないどころか、スタートすら切れないのだ。

「隣接領域」にこそ、勝ち筋がある

では、製造企業や商社(ODM企業)は、どのように成長を図るべきか。

答えは明快だ。
“半導体以外”の製造分野に進出せよ。

なぜなら──
同じ製造ビジネスであれば、これまでに培ってきた自社の強みを、
そのまま活かすことができるからだ。

たとえば──
✔︎ 品質管理
✔︎ 工程設計
✔︎ 量産ノウハウ
✔︎ 現場のマネジメント力

これらは、業界を問わず多くの製造分野で通用する“汎用性の高いスキル”である。

すなわち、既存の強みをそのまま活かしながら、
成果を出せる市場が他にも存在するということだ。

具体的には──
・精密部品
・医療機器向けの部材
・エネルギー関連の加工品
・産業機械のコンポーネント

こうした領域の中には、まだ競合の少ない市場や、成熟していない分野が残されている。
新規参入であっても、後発企業が勝負できる余地が十分にあるのだ。

さらに重要なのは、これらの分野がすべて
“製造”という本業の延長線上にあるという点だ。
自社の得意領域から逸脱せず、過去の経験と実績を武器にできる。

つまりこれは、「守りの戦略」ではない。
むしろ、自社の強みを軸に、
着実にビジネスの幅を広げていく「攻めの成長戦略」である。

だからこそ、製造という自社の土台を活かし、
まずは隣接領域への水平展開を図るべきだ。
市場を変え、顧客層を広げていくことで、新たな成長の柱を築くことができる。

このような戦い方であれば、リスクは抑えられる。
仮に失敗しても、致命傷には至らない。

だが、設計ビジネスに手を出した瞬間、話は一変する。
資金、人材、そして顧客からの信頼──
あらゆる経営資源を一気に失うリスクが、現実のものとなる。

言い換えれば、設計分野に踏み出すということは、
会社の土台を揺るがしかねない重大なリスクを、
自らの意志で背負う決断に他ならない。

成長の鍵は「深化」にあり──経営者が設計参入の前に知るべき現実

現場を知らない経営評論家や、実務経験のないMBAホルダーの言葉に流され、
方向性の定まらない多角化や、耳ざわりの良いだけの“成長戦略”を実行してはならない。

経営資源には限りがある。
だからこそ、リソースは最も成果が見込める領域に集中すべきだ。
それが経営の本質であり、企業が継続的に成果を出し続けるための基本原則である。

あなたが本気で成長を望むのなら、まず足元を固めることから始めよ。
最初にやるべきは、半導体以外の“製造”で収益力と事業の体力を強化することだ。
利益を着実に積み上げ、キャッシュを蓄え、経営基盤を安定させていく必要がある。

そのうえで、「どの市場なら勝てるのか?」を冷静に見極め、
その領域で成果を出せる人材を採用し、
自社が競争優位を築けるビジネスモデルを戦略的に構築していくことが重要だ。
この順序と論理を守って一歩ずつ進めば、会社は確実に強くなる。

そのため、設計ビジネスへの参入は、
こうした準備がすべて整った“その後”で構わない。

資金、情報、人材、そして戦略──これらを備えてはじめて、
設計という“まったく異なる土俵”に挑戦する資格が得られるのだ。

つまり、経営における選択肢は、資本と準備が整った者にしか与えられない。
にもかかわらず──準備も戦略も不十分なままでの参入を、
「設計への挑戦」という言葉で飾り立て、正当化しようとする経営者がいる。

それは挑戦ではない。
勝ち筋がないまま飛び込む行為──すなわち、自滅である。

夢を語るのは構わない。だが、その前に、現実を直視せよ。
もしあなたが本気で会社を成長させたいと願うのであれば、
まずは“自分の土俵”で確実に勝ち切ることに集中すべきだ。

最後に、はっきりと言う。
理想に逃げるな。現実から目を逸らすな。
上辺だけの言葉に惑わされるな。

今、あなたが下すべき決断は──
「設計への参入」ではなく、「製造の深化」である。

そして、その一手こそが、
あなたの会社にとって、本当の“成長戦略”の第一歩となる。