もしあなたが──
「我が社は、直販サイトで顧客に登録を義務付けている。良い仕組みだと思う」
「一度登録させれば、次回の購入もスムーズになるし、営業もやりやすくなる」
「直販サイトを持つことこそ、一流企業の証。我ながら優れた経営判断だった」

──そう思っているのなら、今すぐその幻想を捨てよ。

なぜなら、あなたはいま“売ること”よりも、“管理すること”を優先してしまっている。
その姿勢こそが、経営の本質である“顧客視点”を見失わせる原因になっているからだ。

だからこそ、いま、あらためて問いたい。
あなたの直販サイト──ユーザー登録を“購入の絶対条件”にしてはいないか?

思い出してほしい。
あなた自身が、休日にECサイトでちょっとした買い物をしようとしたときのことを。

「ただ製品を一つ買いたかっただけ」なのに、
ページを開いた瞬間、こう表示されていたら──どう感じるだろうか?

「会員登録が必要です」

この一言を目にした瞬間、多くの顧客は「ここで買うのはやめよう」と心を決める。
わざわざ登録してまで買いたいか? と考えた末、静かにページを閉じてしまうのだ。

その結果、あなたの直販サイトは、
製品を検討していた潜在顧客に購入の機会すら与えられないまま、
知らぬ間に大きなビジネスチャンスを次々と失っていることになる。

しかも厄介なのは、当事者であるほど、この事実に気づきにくいという点だ。
数字には表れにくく、失った機会は「なかったこと」として処理されてしまう。

この問題は、何も中小半導体企業に限った話ではない。
今この瞬間も、日本を代表するような大企業の多くが、同じ落とし穴にハマっている。

今回は、まさにその典型とも言える「ユーザー登録の落とし穴」に、
無自覚のまま陥ってしまった、誰もが知る大企業の実例を取り上げる。

その企業とは──
年商4,500億円を誇り、パワー半導体という最先端技術で
日本の産業を支える、あのローム株式会社である。

ロームが犯した、“ユーザー登録強制”という致命的ミス

2025年7月23日、ローム株式会社は
自社製品を取り扱うオンライン直販サイト「ROHM Online Store」を開設した。

まずは国内でスタートし、将来的には中国・欧州へと展開していく──
まさに本格的なグローバル戦略である。

この展開に向けて、ロームは万全の体制を整えていた。
サイト立ち上げに際しては、専門のウェブ制作会社と契約し、
デザインやサイト構造の使いやすさにも細部までこだわった。

さらに、YouTube上ではディスプレイ広告に多額の予算を投入。
オンライン上での認知の拡大に注力した。

ロームがYouTubeに出稿したディスプレイ広告

加えて、プレスリリース配信サービス「PR TIMES」にも出稿。
「技術サポートから製品購入まで一貫提供」という見出しで、
一般企業はもちろん、メディア関係者に向けた広報活動にも積極的に取り組んだ。

おそらく、これらの施策を担当したローム担当者たちは、
「完璧なマーケティングです」と、
自信をもって経営陣に報告していたことだろう。

しかし──その手応えとは裏腹に、初期の段階で重大な判断ミスがあった。
それは、顧客が製品を購入する際に「ユーザー登録を必須」とした点である。

「え、それって普通のことじゃないの?」と思ったのなら、
あなたの会社も、同じ落とし穴にはまっている可能性が高い。
その固定観念こそが、経営判断における見落としの温床となるのだ。

そもそも顧客は、ユーザー登録をしにサイトを訪れているのではない。
「この製品が、自社の課題を解決できるのか」──
その答えを確かめるために、時間を割いてページを開いているのだ。

にもかかわらず、ロームは“新規登録”を、あたかも通行料のように、
購入前の必須ステップとして設定してしまった。
その結果、多くの見込み客が購入に進む前に、ページをそっと閉じ離れてしまっている。

ロームの経営陣やマーケティング担当者が見落としていたのは、
「登録はしたくないが、製品には関心がある」という有望な
見込み顧客が一定数、確実に存在しているという厳然たる事実だ。

そして彼らは、「登録するかどうか」で悩んだりはしない。
「登録必須」の文字を見た瞬間に──
その製品も、提供している企業自体も、選択肢から即座に外してしまうのだ。

解決策はシンプル──登録したくない顧客の気持ちを汲め

多額の予算を投じ、満を持してローンチした直販サイト──
にもかかわらず、ユーザー登録を必須とすることで、多くの見込み客が離脱していた。
では、ロームの経営陣やマーケティング責任者は、いったい何をすべきだったのか?

彼らが考えるべきだったのは、
「継続的に利用してくれる顧客の利便性」や、「登録してもらえれば
営業活動が効率化する」といった、自社にとって都合の良い視点ではない。

真に注目すべきだったのは、
「登録せずに利用したい顧客」のニーズにどう応えるか、という点だった。

たとえば──
✔︎ まだ他社製品と比較検討中の決裁権者
✔︎ 調達候補として、まずは製品情報だけを確認したい購買担当者
✔︎ 社内テスト用に、少量のサンプルだけを求める技術者

こうした顧客に対しては、ユーザー登録を前提とせずに
製品を購入できる仕組みを整えておくべきだった。

順番を間違えてはいけない。
まずは、買ってもらう。試してもらう。興味を持ってもらう。
そこから関係は始まる。

そして──
顧客が「もっと知りたい」「また利用したい」と感じたその瞬間に、
はじめて「登録」という選択肢を提示すればいい。

それこそが、顧客視点に立った適切なアプローチであり、
マーケティングの本質を捉えた行動であり、健全な経営判断だ。

つまり、最初から登録を前提にするのではなく、
顧客との自然な関係構築を重視する姿勢こそ、
今の時代に求められている発想である。

このように考えれば、
「直販サイト=登録必須」という発想は、すでに時代遅れと言わざるを得ない。
にもかかわらず──ロームは、こうした時代の変化にまだ気づけていない。

ユーザー登録の壁の前でそっと立ち止まり、
やがて何も買わずにページを離れていった──
“購入寸前の見込み客”を、いったいどれほど取りこぼしてきたのか?

その損失の重みを、今こそ真剣に見つめ直すべきときだ。

直販サイトにおける「登録必須」は、売上を捨てる行為だ

直販サイトにおける「登録必須」は、売上を伸ばすための“近道”ではない。

それは、顧客が「もっと便利に買いたい」と感じたときに
初めて提示すべき“選択肢”であり、
購入の入り口で“義務”として押しつけるようなものではない。

そもそも顧客が求めているのは、
手間のかからないスムーズな購入体験であって、会員登録そのものではない。
彼らは製品を知り、比較し、納得したうえで購入するためにサイトを訪れているのだ。

この前提を見誤れば、企業は貴重な見込み客との接点を
気づかぬうちに自ら断ち切ってしまうことになる。

つまり、「ユーザー登録の強要」は、売上を遠ざける原因となっているのだ。
それは、次に挙げるような顧客目線を欠いた販売スタイルと、何ら変わらない。

・入り口で身分証の提示を求めてくるコンビニ
・試食も出さずに、100グラム1万円の黒毛和牛を売ろうとする高級スーパー
・サンプルも見せず、1,000万円超の製品を即決で契約させようとする営業マン

これらに共通しているのは、顧客の信頼や納得を得る前に、
購入するための条件を先に課してしまっている点だ。

つまり、直販サイトで「登録しなければ購入できない仕組み」を導入することは──
見込み客を逃す、重大な経営判断の誤りと言えるだろう。

こうした根本的な間違いに気づけなければ、
売上も信頼も、知らぬ間に少しずつ失われていくことになる。

だからこそ、今この瞬間が、
あなたの会社の直販サイトを徹底的に見直すべき絶好のタイミングなのだ。
たとえば、こんな問いを自社に投げかけてみてほしい。

✔︎ ユーザー登録を初回から強制していないか?
✔︎ 顧客の立場や購買心理を反映したサイト設計になっているか?
✔︎ サイトが“売上を生み出す営業装置”として、正常に機能しているか?

──これらの問いから目を背けてはいけない。

なぜなら、その問いに真摯に向き合う姿勢こそが、経営者に求められる責任だからだ。
目を背けたくなるような現実にも正面から向き合い、課題の本質を見極め、
確実に改善へとつなげていく姿勢が、今まさに求められている。

そして、その課題の根底にあるのが──
顧客の購買スタイルそのものが大きく変化しているという事実である。

今の顧客は、これまで以上に「便利さ」と「スムーズさ」を重視している。
そして、その期待に応えられる企業だけが、これからの時代に選ばれていく。

未来を変えるのは、マーケティング手法や最新のデジタルツールではない。
顧客との信頼を築き、変革を導く最初の一歩は──
経営者であるあなた自身の「決断」にかかっている。