「新規顧客さえ取れれば、売上は伸びる」──
そんな“成功幻想”を握りしめているマーケティング担当者が、
半導体企業には多い。

だとすれば、
それは、竹やりでアメリカ軍に立ち向かうようなものだ。

BtoC企業は、
最先端のマーケティング戦術で武装し、
精密に市場を読み解いて戦っている。

それなのに、
半導体企業は“気合と根性”という昭和の遺物だけを頼りに、
リングに立っている状態なのだ。

気づくべきだ。
本当の成長とは、新規ではなく“既存”の中に眠っている。

あなたの会社にとって、最も効率がよく、利益率が高く、競合に奪われにくい相手──
それが「すでにあなたの製品を買ったことのある顧客」、つまり既存客である。

「売って終わり」で放置しているのなら、それは資産を見殺しにしているのと同じだ。
新規ばかりを追っていては、いつまで経っても“ゼロスタート”の繰り返しでしかない。

だが既存客は違う。
信頼・実績・接点という3つの土台がすでに整っている。

この「金の鉱脈」を掘らずして、外の荒野に夢を見るのは──
マーケティング担当者として、あまりにも非合理だ。

なぜ既存客なのか?──利益構造で考えよ

マーケティングで最も基本的かつ、最も無視されやすい原則がある。
それは──「新規顧客の獲得コストは、既存顧客の5倍」という法則だ。

これはBtoBであろうと、BtoCであろうと変わらない。
特に半導体業界のように製品単価が高く、営業活動に長い時間がかかる分野では、
その差はさらに拡大する傾向にある。

広告費、展示会出展、人件費、資料作成……
すべてが「まだ買ってもいない相手」に向けた、リスク前提の投資である。

それに対して、既存客はこうだ──

✔︎ 担当者の顔も知っている
✔︎ 製品のメリット・弱点も理解している
✔︎ 稟議ルートや調達プロセスも通っている

つまり──売りやすい・決まりやすい・離れにくい。
さらに言えば、相手企業の担当者にとっても「再購入の方がラク」なのだ。

例を出そう。
1件の成約にかかるCPA(顧客獲得コスト)が、

・新規客:40万円
・既存客:5万円

だったとする。

同じ受注1件でも、粗利に35万円の差が出る。
これが10件、20件と積み重なれば、年間の利益構造を根本から揺るがす。

なぜ既存客を軽視してしまうのか?──営業の盲点

ここで、あなたに問いかけたい。

営業チームは今、
「今すぐ買ってくれそうな相手」ばかりを追っていないか?

営業の現場では、どうしても「成果になりそうな案件」に注力しがちだ。
それは新規客であることが多い。

だが実際には──“手間がかかるだけ”のことも多い。

一方、既存顧客のリストはどうだ?
営業が忘れた頃に「そろそろ連絡してみようか」と思い出すだけで、
日常のアプローチ対象からは完全に外れているケースが多い。

これはまさに、
付き合った直後だけ優しくして、あとは連絡も寄こさない恋人と同じ。
そんな相手に、誰がまた仕事を頼みたいと思うのか?

さらに、
今この瞬間も、競合他社はあなたの既存客にアプローチを繰り返している。

「前に買ってくれたから、きっと次も」──
そんな甘い期待は、確実に裏切られる時代である。

A社とB社──既存客戦略の“明暗”

2023年末、
半導体製造装置を扱うA社とB社は、
期末に向けて営業戦略を立てていた。

両社とも過去3年で100社以上に納品実績を持つ中堅企業だ。

だが、既存顧客への向き合い方は真逆だった。

A社(失敗例)

❌「もう一度売る手間より、新規を開拓しよう」と判断
❌ そのため、既存客リストには一切アプローチせず
❌ 社内でも「過去の案件」は“終了案件”として扱われていた

→ 結果:受注ゼロ。新規案件も競合に押され、売上は前年比マイナス7%。

B社(成功例)

✔︎ 年末前に「既存客の掘り起こしキャンペーン」を開始
✔︎ 3年前までの顧客に、アップグレード製品の情報と使用方法をDMで伝える
✔︎ 特定業界向けには個別提案メールとウェビナーを開催

→ 結果:3件のリピート受注を獲得。追加提案にもつながり、売上は前年比プラス9%を達成。

違いはただ一つ──
「既存客を“過去の顧客”と見たか、“未来の顧客”と見たか」──それだけだ。

新規客=夢。既存客=金。

新規顧客は、たしかにキラキラして見える。
「この市場、攻めたら面白そうだな」
「まだ誰もアプローチしていない業界だ」
──そんな期待に胸を膨らませるのは、悪いことではない。

だが、よく考えてほしい。

“手に入れていないから美しく見える幻想”に、あなたは踊らされていないか?

あなたの会社には、すでに信頼を築いた既存客がいる。
その既存客こそ、最も費用対効果の高い“金の鉱脈”だ。

マーケティングは、限られた資源で最大の成果を出すための手段である。
だからこそ、あなたがまず取り組むべきは「既存客の再資産化」なのだ。

あなたの企業が、
これからも勝ち続けたいのなら。
これからも市場に残りたいのなら──

既存客を“放置”から“資産”に変える戦略を実行しろ。

売上は、今そこにある。
──あなたが、それを掘り起こしさえすれば。