もしあなたが、
「ウチのマーケティング、なんか成果が出ないな」と感じているのなら、
まず疑うべきは部下の能力ではない。あなた自身の“口癖”である。
社長の何気ないひと言が、
マーケティングの芽を根こそぎ摘み取っているのだ。
マーケティングが機能しない会社には、ある共通点がある。
それは──
社長の言葉が、現場の判断と行動を狂わせているということ。
たとえば水泳大会。社員たちは必死に泳いでいる。
なのに、プールサイドから社長がこう叫ぶ。
「いいぞ!もっと感動させろ!」
「バズれ!再生回数が勝負だ!」
「ライバルの泳ぎのフォームをそっくりそのまま真似ろ!」
──これでは勝てるはずがない。
そもそも競技のルールが違うのだ。
これから紹介するのは、
会社を静かに沈めていく“社長の禁句3選”である。
あなたの口から、これらが出ているのなら──
社員たちは泳げない。いや、すでに溺れかけている。
禁句1──視聴者が笑える、感動するような広告を作れ
これは、
半導体企業の社長が最も陥りやすい“ズレた指示”だ。
「ウチは明るい会社だから、広告も“笑い”でいこう」──
あなたも、会議で部下に対し、そう言った経験はないか?
たしかに、広告で笑いや感動をアピールすれば、視聴者の好感度は上がる。
広告を見た数人が、最終的に製品・サービスを購入することもあるだろう。
(その売上が、広告費を上回るかは疑わしいが)
だが、それはBtoCの世界の話だ。
あなたが住宅やアパレル、冷凍食品を売っているなら、それでもいい。
半導体業界は違う。
顧客の購買を決めるのは感情ではない。理性である。
半導体ユーザー企業の購買担当者たちは、
冷静かつ論理的に判断するプロ集団だ。
彼らが求めているのは、
「スペック」「導入事例」「投資対効果」「信頼性」「供給体制」──
つまり、確実性のある情報である。
そのため、
「笑える」「泣ける」「グッとくる」──
そんな感情演出は、彼らの判断材料にならない。むしろ邪魔になる。
笑い・感動広告がNGの理由はもう1つある。
それは──
広告の効果を測れないからだ。
広告の目的は、視聴者に好かれることではない。
自社の売上に直結させることである。
「社長や社員の人柄が伝わってくる良い広告だったね」
「会社の苦しかった時代を思い出した社員が号泣した」
「面白いと、SNS上で女性を中心に話題になっている」──
それで終わっていては、
広告ではなく社内イベントだ。
広告により、何件の問い合わせが来たのか?
広告により、どの製品に関心が集まったのか?
広告により、何社が資料請求したのか?
──これらが明確でなければ、改善も再現もできない。
つまり、PDCAが回らない。
笑いや感動を追求した広告を作ることは、
地図を持たずに航海に出るようなものだ。
「アメリカに向かってるつもりが、北朝鮮に上陸した」──
そんなことが本当に起きる。
マーケティングは“感性”ではない。再現性のある科学である。
ストーリーではなく、ファクト(事実)で語れ。
ドラマではなく、データとロジック(論理)で勝負せよ。
禁句2──バズる動画を作れ。SNSの「いいね」「フォロワー」を増やせ
これもまた多い。
「とにかく目立て」「バズれば勝ちだ」──
そんな幻想を振りまいている経営者は、今すぐ思考を改めよ。
そして最も危険なのは、
バズった動画に満足してしまう社長である。
なぜか?
理由は明白だ。バズ=売上と勘違いしているからだ。
──はっきり言おう。
再生回数がいくら伸びても、それが見込み客でなければ価値はゼロだ。
100万人に見られても、誰も買わなければ、大幅な赤字である。
広告費も人件費も費やした時間も──すべてが“浪費”に終わる。
バズったことに浮かれている経営者は、
拍手の多さでフィギュアスケートの勝敗を決めようとする観客と同じである。
つまり、本質を完全に見失っている。
SNSの数字には麻薬的な中毒性がある。
「フォロワーが増えた」「バズった」「登録者が1000人を超えた」──
それらは承認欲求を満たしてくれる。だが、財布は満たさない。
マーケティングで本当に重要なのは、数字の“量”ではない。
「誰に」「何を伝えて」「どう動かすか」という戦略設計である。
動画の目的は、視聴者から面白がられることではない。
目的はただ1つ──見た人に“次の行動”を起こさせることだ。
YouTube広告が資料請求の増加につながっているか?
Instagramの投稿が、問合せや商談につながっているか?
展示会で名刺交換した見込客に、継続的な情報提供ができているか?
これらが設計されていないのなら、バズなど意味がない。
それはただの賑やかしだ。
「見られるだけの広告、バズっただけの広告」は、
モテるけど誰からも告白されない人と同じである。
多くの人間から見られることだけに満足し、
関係性構築を怠った者は、永遠に選ばれない。
だからこそ、問うべきは「何を測っているか」だ。
KPIは“成果に繋がる指標”だけを追え。
PDCAを回せない数字は、ただの飾りだ。
広告代理店やコンサルティング会社に踊らされるな。
華やかさに流されるな。
緻密に設計された仕組みを、自社で持て。
それがなければ、
何回バズっても“売れない会社”のままで終わる。
禁句3──競合のマーケティングをそのまま真似しろ
そして最後はこれだ。
「うまくいってる会社を真似ればウチも売れるだろう」──
そんな安直なコピー発想が、会社を確実に衰退させる。
これは戦略ではない。
逃避だ。思考停止だ。
同業他社を真似した瞬間、価格以外の武器を自ら放棄することになる。
差別化のない見せ方をした時点で、顧客の判断基準は1つだけになる。
──「どっちが安いか?」だ。
そしてその瞬間、
あなたの会社は地獄の価格競争に突入する。
価格で勝負するしかなくなった企業の末路は決まっている。
広告費が削られ、人件費も削られ、開発投資も止まり、やがて市場から消える。
では、どうすればいいのか?
答えはひとつ。
「隣」ではなく、「斜め上」を見ろ。
つまり、異業種の成功モデルを徹底的に観察し、盗み、自社に翻訳して使え。
たとえば──
SaaS企業がよく使うのが、
「製品説明動画→資料請求→営業アポ」までを自動でつなぐ仕組みだ。
お客様に説明会を開く前に、動画で自動的に売れる流れをつくっている。
投資会社が用いる、ステップメール型の教育マーケティング──
「いきなり営業」ではなく、
「知識を段階的に提供し、納得してから購入させる」手法。
EC企業が用いる、
顧客レビューの活用と、製品を購入した顧客のインタビュー動画を、
“信頼の証拠”としてアピールするマーケティング戦略──
これらを
半導体業界仕様にアレンジし、
自社に導入することこそが、
本物のマーケティング戦略である。
同業は真似るな。他業界から盗め。
それが、あなたの会社が勝ち続ける唯一の方法である。
結論は明確だ──
「模倣」は死を招く。「翻訳」は生き残る。
口癖を変えよ。会社が変わる。
マーケティングが機能しない企業には、共通点がある。
それは、トップの口癖が間違っているという事実だ。
言葉は空気を作る。
空気は文化を作る。
文化は、社員の行動を支配する。
だからこそ──
まず変えるべきは、社長の「発言」である。
「感動する広告を作れ」──感情論で現場を惑わすな。
「バズらせろ、フォロワーを増やせ」──数字に酔って、売上を見失うな。
「競合を真似しろ」──根拠なき模倣は、思考停止の証だ。
これらの言葉を口にした瞬間、マーケティングは死ぬ。
社内の思考が止まり、行動が止まり、最後に売上が止まる。
だからこそ、ここでハッキリ言う。
社員に“戦略”を教えよ。
数字の“意味”を共有せよ。
そして、売上という“動かしようのない事実”でマーケティングを語れ。
あなたが言葉を変えれば──
現場が動き出す。
社員が考え出す。
数字が動き始める。
会社が変わるとは、
社長が変わることに他ならない。
やり方を変えるのではない。
まずは口癖から変えるのだ。
変革は、朝礼からではなく──
あなたの“口元”から始まる。