もしあなたが「売上を伸ばしたい」と願っているのなら──
いや、「経営を安定させたい」とすら思っているのなら──
今すぐ、“苦情対応”を全業務の中の最優先事項にせよ。
営業強化でもない。新製品やサービス開発でもない。
業務改善でもなければ、DX導入でもない。
まず着手すべきは、クレーム対応である。話はそこからだ。
ひょっとしたら、あなたはこう考えていないだろうか?
「クレーム対応なんて現場の仕事だろう」
「ウチは技術で勝負してるんだから、問題ないはずだ」と。
だが、その思い込みこそが命取りだ。なぜなら、それは──
“底に穴が空いたバケツに、必死に水を注ぎ続けている”行為だからだ。
どれだけ営業が頑張っても、広告やマーケティング、販促資料に予算をかけても、
あなたの知らぬうちに、大切な顧客=水はジャバジャバとこぼれ落ちている。
そして、一度こぼれた水は、もうバケツには戻らない。
つまり、一度離れた顧客は、ほぼ確実に戻ってこないということだ。
だからこそ、水を注ぐ前にやるべきことがある──穴を塞ぐことだ。
しかも、その穴は、自然に空いたものではない。
事故のように突然できたわけでもなければ、
激しい価格競争や、他社製品の性能が原因というわけでもない。
そう──
その穴をこじ開けているのは、ほかならぬあなた自身の“対応力の欠如”なのだ。
目次
新規客を追いかけるな。まずは失客を止めろ
あなたは、営業部にこう叫んでいないだろうか?
「新規案件をもっと獲ってこい!」
「昨年の売上が悪かったのは、新規客が少なかったからだ!」──と。
だが、それはまさに、“敵がいない方向へ銃を撃ちまくっている”ようなものだ。
あなたが本当に向き合うべき“相手”は、
すでにあなたのすぐ目の前にいる──
そう、不満を抱えたまま放置されている既存の顧客たちである。
彼らは、もともとあなたを心から信頼し、
何度も発注してくれた「味方」だったはずだ。
その信頼を裏切ったまま、放置していないだろうか?
もちろん、新しい取引先は魅力的に映るだろう。
初対面でのやりとりもスムーズで、将来への期待も膨らむ。
まるで、輝かしい未来が広がっているように感じられるかもしれない。
しかし、どうか忘れないでほしい。
新規客から売上を上げるには、既存客に売る場合の5倍のコストがかかる。
これはマーケティングの世界では、もはや「常識以前の前提」だ。
にもかかわらず、あなたがなお、新規開拓ばかりにこだわり続けるのだとしたら──
それはまるで、恋愛経験ゼロの低年収中年男性が、
「今田美桜に似ている彼女を100人つくりたい」と
目を輝かせながら雄弁に語っているようなものだ。
現実を知らない。マーケティングも知らない。
そして何より、“今そこにある危機”が見えていない。
よく聞いてほしい。
既存客こそが、信頼であり、売上であり、利益の源泉である。
そして忘れてはならない。
苦情とは“別れ話”ではない。
それはむしろ、顧客が「まだ期待している」「改善してほしい」と願っているサインだ。
怒りの声があるうちは、まだ関係修復のチャンスがある。
だが──沈黙されたら、すべてが終わる。沈黙こそが“関係の完全終了”を意味する。
何も言わずに立ち去る顧客ほど、企業にとって深刻で、取り返しのつかない存在なのだ。
逃げた顧客は二度と戻らない。そして悪評は伝染する
現実を直視せよ。数字は嘘をつかない。むしろ、残酷なまでに正直だ。
アメリカ研究所が実施した調査レポートによれば──
✔ 不満を抱いた顧客の90%は二度と戻ってこない
✔ その顧客は、少なくとも9人に悪評を伝える
✔ さらに、そのうちの13%は20人以上に広める
(業界内であれば、100人単位で共有されると見て間違いない)
✔ 顧客のたった1件のマイナス体験を帳消しにするには、12件のプラス体験が必要
つまり、たった1件のクレームを放置するだけで、
それまで積み上げてきた営業努力が、すべて水の泡になるということだ。
広告費、展示会出展、人件費、接待、販促資料、訪問営業──
あなたの会社が「売上をつくるため」に時間と予算を投じて築いてきた積み重ねが、
たったひとつの火種で、一瞬にして“灰”と化す。
だが、それだけでは済まない。
顧客の失望は、静かに、しかし確実に企業の評判を腐らせていく。
たとえば、こうだ──
「対応が遅い」「連絡しても返事が来ない」「なんだか態度が悪かった」
そんなネガティブな評価が、
社内チャット、業界のSlack、仕入れ先のグループLINEなどでシェアされていく。
そのメッセージは、誰にも止められない。
一度火がつけば、口コミは一気に燃え広がり、“業界標準の悪評”として定着する。
さらに恐ろしいのが、Googleマップの口コミ欄だ。
顧客は匿名で、誰の許可もなく、あなたの会社に対して評価を投稿できる。
しかも、それはインターネット上に半永久的に残り続ける。
あなたが寝ている間も。家族と食事をしている間も。商談に出ている間も。
──あなたの会社は検索され、口コミを投稿され、批判され続けているのだ。
そしてやがて始まるのが、“声なき制裁”である。
顧客や取引先は、わざわざ不満を口に出したりはしない。
だが、静かに、確実に“次の行動”に移る。
✔️ 装置メーカーは、見積依頼や技術相談の回数を徐々に減らしてくる
✔️ 素材メーカーは、次の共同開発リストからあなたの会社を除外する
✔️ 半導体メーカーは、品質トラブル時の“代替調達先”として競合をリストアップし始める
これが現実だ。
クレームを軽視する経営姿勢が、気づかぬうちに会社の信頼と、
将来の取引機会をじわじわと蝕んでいくのだ。
売上を伸ばしたいなら、“謝罪力”を鍛えよ
もう一度、はっきり言おう。核心はここにある。
あなたが今すぐ取り組むべき最優先事項──
それは、既存顧客からの“怒り”に即座に反応し、真摯に向き合う体制を整えることだ。
クレーム対応のスピードを徹底的に高めよ。
「とりあえず現場に任せておこう」は、最悪の選択だ。
問題の火種が見えたら、社長自らがホースを持って、真っ先に現場へ飛び込め。
なぜか?
それこそが、最も早く・最も安く・最も効果的に売上を守る方法だからだ。
そして重要なのは、単に「その場しのぎ」で終わらせないこと。
再発させない仕組みづくりまでやって、初めて意味がある。
✔ クレーム対応の内容は、必ず文書で記録すること
✔ 謝罪や説明の手順は、「お手本」として社内マニュアル化しておくこと
✔ 対応の経緯は、Excelや社内の記録フォルダに残し、誰でも見られるようにしておくこと
✔ 同じようなトラブルが繰り返されないように、部門間での情報共有をルール化すること
これが、「売れる会社」に共通する仕組みである。
たった一通の即時返信メールが、1000万円規模のリピート受注につながることもある。
逆に──たった一件のクレーム放置が、
3年かけて積み上げてきた重要案件を、たった1日で失う原因になることもあるのだ。
これは誇張でも脅しでもない。
すでに──どこかの中小半導体企業で、現実に起きていることである。
クレームこそが“売上の源泉”である
「苦情対応なんて現場の仕事だろう」
「社長がクレーム対応なんて、そんな時間はない」
──もし、あなたがそう思っているのなら、
あなたはマーケティングを理解していない経営者の典型だ。
いや、それ以前に、顧客との信頼関係という会社の最重要資産の価値を、
正しく認識できていない。
怒ってくれる顧客は、まだあなたに期待している。
その怒りは、「まだ取引を続けたい」「改善してほしい」という最後のメッセージなのだ。
だが、何も言わずに立ち去った顧客は──もう二度と戻ってこない。
そして、その事実に気づけなかった企業は、後からこうつぶやく。
「なぜ売上が落ちたのか分からない」
「顧客が離れた理由が分からない」──と。
連絡がない=満足している、ではない。
それは単なる“関心の喪失”であり、顧客からの「終焉宣言」である。
逃げるな。向き合え。クレームは、売上の火種だ。それを消してはいけない。
むしろ、火を焚き直して──
社内を暖める“薪ストーブ”に変えるのが、プロの経営者の役目である。
クレーム対応は「守り」ではない──「最大の攻め」である
クレーム対応は、単なる「後始末」ではない。
起きてしまったトラブルを黙って処理する“事後対応”──
そんな消極的な行為では断じてない。
それは、売上を守り、未来のリピートを生み出すための“最前線”であり、
同時に──あなたの会社の“真の姿勢”が問われる瞬間でもある。
顧客は見ている。
怒っているときほど、企業の本性が露わになるのを敏感に察知している。
「この会社は、自分たちのことをどう扱うか」
その一挙手一投足が、次の発注につながるか、永遠の別れになるか──
その分岐点になる。だからこそ、次の3つを、今すぐ胸に刻んでほしい。
✔️ 苦情対応は、“失客を止める”という究極の攻めの手段である
✔️ 新規客を追う前に、いま目の前にいる既存客を全力で守れ
✔️ クレームは、無料で手に入る市場の情報であり、未来の契約予告である
あなたの会社が、「失客しない会社」になれば──
✔️ 営業コストは劇的に下がり
✔️ 顧客からの紹介は雪だるま式に増え
✔️ ブランドは業界内で際立ち
✔️ 利益率は右肩上がりに跳ね上がる
しかも、それらは一時的なブームではない。
一度仕組みとして根づけば、5年後も10年後も利益を生み続ける“資産”になる。
そして──そのすべての結果がつながる先にあるのが、
“安定経営”という名のゴールである。
そのゴールを実現するための第一歩は、
なにも遠い未来にあるわけではない。
今この瞬間、あなた自身が「クレームとどう向き合うか」──
そこにすべてがかかっているのだ。