もしあなたが、
「売上を上げるために、営業には“競合より1円でも安い価格”を提示させるべきだ」
「価格は絶対に上げるな。そんなことをすれば、すぐに競合に乗り換えられてしまう」
「“良いものを安く”売ることが、地域貢献につながる“善行”だ」
などと、本気で信じ込んでいるのなら──今すぐその考えを捨てろ。
それは、あなた自身が気づかぬうちに、
「安さこそ正義」という呪縛にとらわれている証拠だからだ。
“良いものを安く”という発想は、一見すると顧客思いのように聞こえる。
だが、それは“高く売る努力”を放棄した経営者の、耳ざわりのいい弁明でしかない。
そうした価値観にとらわれたまま、あなたがビジネスを続けていけばどうなるか?
✔︎ 利益は出ない
✔︎ 社員の給料は上がらない
✔︎ 設備投資もできない
✔︎ 新規開発にも手が回らない
気づけば、競合に囲まれ、価格でしか選ばれない“貧乏会社”が出来上がっている。
そして最後は、顧客にも市場にも見放され、静かに市場から姿を消すことになる。
だが、本当の悲劇はその前から始まっている。
会社が倒れる前に、この「最安値思考」が社内文化を侵食し、
組織そのものを弱体化させるからだ。
営業はすぐに“値引き”という逃げ道に走り、
技術者は原価低減ばかりに頭を使い、
経営陣は「高く売る努力」そのものから目を背ける。
誰も戦おうとしない。誰も挑まない。誰も“価値”を語ろうとしない。
その時点で、会社の終わりはすでに始まっている。
これはもはや、単なる戦略ミスではない。
組織全体が自らの競争力を削ぎ落とす、集団的な自滅行為である。
“良いものを安く”という思考が生む、致命的な罠
“良いものを安く”──
これは聞こえはいいが、自ら進んで競合と同じ土俵に上がってしまう愚策である。
「ウチの方が品質がいい」
「日本製だから信頼できる」
「この技術はどこにも負けない」──
そんな“技術に自信あり”のセールストークは、
今の顧客には通用しない。
昭和の時代なら通じたかもしれない。だが、今は令和。
価値観も購買基準も、とっくの昔に変わっている。
今の顧客は、「品質が高いこと」は当然の前提としてしか見ていない。
つまり、いくら技術力を誇ったところで、「それは当たり前」と受け取られるのだ。
そして、問われるのがこの一言である。
「で、いくらで売ってくれるの?」──
この瞬間、あなたの会社は「値段でしか判断されない企業」に成り下がる。
そこでは、どれだけ技術が優れていても、どれだけ過去に実績があっても──
すべてが無視される。比べられるのは、ただ一つ。「価格」だけだ。
つまり、“良いものを安く売る”という発想は、
競合と同じルールで戦う「殴り合い」を意味する。
資本力、営業力、人員数──
あらゆる面で上回る大手企業とあなたの会社が、
同じ条件で真っ向から勝負することになる。
これを戦争にたとえるなら、兵数も兵站も上回る敵に対し、
同じ武器・同じ防具・同じ作戦で突撃するようなものだ。
──勝てるわけがない。
なぜなら、
相手は価格を下げても経営が持ちこたえられる
資本力と組織基盤を持っている。
一方こちらは、値引きをすれば即、利益が飛び、資金繰りに窮する。
加えて、販売網も人員体制も脆弱で、とても長期戦には耐えられない。
そんな勝負に未来などあるはずがない。
経営戦略の基本は「差別化」である。
それなのに、自ら進んで「価格」しかない土俵に上がり、
他に武器があるにもかかわらず、「最安値」だけで戦おうとする──
これこそが、自滅の第一歩である。
あなたの会社は、
本当に“安さ”だけで選ばれる三流企業で終わっていいのか?
──違うはずだ。
あなたの会社には、技術がある。人材がいる。誇りがある。
であれば、やるべきことはただ一つ。
価格でしか評価されることのない戦場から、今すぐ降りろ。
そして、顧客が「価格以外の理由」で選ばざるを得ない、唯一無二の強みを磨け。
自社が1番になれる“小さな市場”を見つけろ
では──どうすれば、価格競争という泥沼から抜け出せるのか。
多くの経営者が頭を抱えるこの問いの答えは、実は驚くほど単純だ。
だが、その単純さゆえに、実行できている会社はほとんどない。
✔︎ 競合がいない場所で戦え
✔︎ 自社が“圧倒的1位”になれる“小さな市場”を見つけろ
✔︎ その市場で利益を出し、次なる“小さな市場”へ横展開せよ
つまり、やるべきは──ニッチ戦略である。
ニッチとは「ちっぽけな市場」ではない。
「他社が本気を出していない、見落とされたブルーオーシャン」のことだ。
たとえば──
✔︎ パワー半導体だが、車載向けはあえて捨て、極端な高温環境に特化する
✔︎ “マニュアル嫌い”の現場向けに、即レス・即対応・マニュアル不要を売りにする
✔︎ 「装置停止=致命傷」と考える顧客に、“壊れにくい”高価格モデルを提供する
こうした“スペック以外の価値”──
サポート体制、対応スピード、製品への信頼、専門領域への深さ。
それらを徹底的に磨くことで、あなたの会社は「価格という土俵」から脱出できる。
価格は、機能の優劣で決まるものではない。
価格は、「この会社と組めば安心だ」という確信に対して支払われるものだ。
つまり、顧客にこう思わせることができれば良い。
✔︎「この会社なら間違いない」
✔︎「この担当者は本当に信頼できる」
✔︎「この会社と組めば、自分のキャリア(=出世)にもプラスになる」
✔︎「万が一失敗しても、この会社なら周囲から責められないだろう(=保身)」
──こうした“安心と信頼の空気”こそが、最高のプライシング戦略になる。
忘れるな。
中小半導体企業は「市場が大きい」という理由だけで、
大市場に飛び込んではならない。
そこには、資金力も開発力も営業力も、
あなたの会社をはるかに上回る競合が
ウジャウジャとひしめいている。
“魚の多い海”は、
“大きな魚が支配している”のが資本主義の現実なのだ。
重要なのは──
大きな市場で2番手を狙うな。小さな市場で1番を獲れ。
それこそが、価格競争から抜け出すための唯一の道である。
「最安値思考」から脱却し、“高く売る”文化を植えつけよ
今こそ、あなたの会社の文化を根こそぎ変える時だ。
営業にはこう命じろ。
「絶対に値引きから入るな。価格は価値の象徴だ」と。
技術者にはこう言え。
「スペックで戦うな。“高く売る理由”を製品に組み込め」と。
経営陣には叩き込め。
「“違い”を言語化できなければ、結局は価格でしか勝負できなくなる」と。
社長であるあなた自身が最前線で導け。そして、胸を張ってこう言い切れ。
「高く売ることは、顧客を幸せにすることだ。
自社の価値を信じ、その価値を語り、堂々と正当な価格を提示せよ」と。
それこそが、
社員教育の本質であり、企業文化の再定義であり、
“価格で戦わない会社”への第一歩である。
もう、“最安値で選ばれる会社”になるな。
これからは、“高くても選ばれる会社”になれ。
それこそが、
中小半導体企業が価格競争という地獄のリングから脱出し、
勝ち続けるための唯一の戦略である。