もしあなたが──
「新社長の私が、古い考えを一掃すれば売上は伸びる」
「新社長の誕生こそ、会社にとってのカンフル剤だ」
「もはや旧社長はいない。これからは新しい時代だ」
──などと考えているのなら、まずは立ち止まれ。
なぜなら、その考えのままでは、
近い将来、あなたの会社は確実に崩壊するからだ。
社長が代わること自体は悪ではない。
むしろ、世代交代や新陳代謝として健全なプロセスである。
だが、ひとつだけ──
「絶対にやってはならない社長交代」が存在する。
それは、“原則”を前社長から承継せずに行われる社長交代だ。
“原則”とは、
企業が成長し続けるためのエンジンであり、
同時に企業が存在し続けるための理由でもある。
ゆえに、
「新しい風を吹き込もう」と意気込む新社長であっても、
創業以来掲げてきた“原則”をむやみに破ってはならない。
“原則”を無視した行動を繰り返す企業は、時間の問題で、確実に崩壊する。
そして、その崩壊はいつも──「革新」という名の誤解から始まる。
“原則”を承継しない社長は、会社を誤った方向へ導く
社長交代のとき、新社長がまずやるべきことはひとつ。
それは、前社長から会社の“原則”を承継することだ。
なぜか?
理由はシンプルである。
後任が“原則”を理解しないまま舵を取れば、会社は確実に迷走するからだ。
たとえば、あなたの会社が
「前工程向け露光装置」のメーカーだとしよう。
そして、長年の“原則”が──
「前工程向け露光装置市場でNo.1企業であり続けること」であったならば、
どれほど競合が「後工程向け露光装置」に注力していようと、
あなたの会社は「前工程向け露光装置」への投資を最優先にしなければならない。
これこそが、
会社の“原則”であり、揺るがぬ軸でもある。
だが、その“原則”を無視して、新社長がこう言い出す──
「最近、競合の後工程向け露光装置の投資が増えているな。ウチも後工程をやるか!」
この瞬間、あなたの会社の終焉へのカウントダウンが始まる。
なぜならそれは、
初代社長から前社長までが長年かけて築き上げた「勝ちパターン」を、
たった一声で破壊する行為だからだ。
“原則”を理解していない経営者は、例外なく同じ過ちを犯す。
流行りの技術に飛びつき、的外れな投資を繰り返し、やがて迷走する。
それは、まるで──
売上を1円も生まない「本社」に400億円を注ぎ込み、
失敗したニコンの姿を思い出させる。関連記事:ニコンの失敗から学べ。半導体企業が社屋にお金をかけてはならない理由
気づかぬうちに崩壊は始まる──“原則”を軽んじた会社の末路
ある炭酸飲料メーカーの話だ。
この企業では、もともと32種類の香料を使っていた。
ある社員がテストを行い、
「1種類の香料を抜いても消費者は気づかない」という結果を得た。
そこで、その香料を1つ減らした。
数ヶ月後、また別の香料を抜いた。
これも消費者には気づかれなかった。
その後も同じことを繰り返した。
2年間で10回以上──“1つずつ”香料を減らしていった。
そして、ある日突然、売上が半減した。
味が“おかしい”と、消費者が一斉に気づいたのだ。
これは何を意味するのか?
「1回1回の変化には誰も気づかなかった」──
だが、小さな劣化の積み重ねは、ある日突然、誰の目にも見える形で現れる。
企業経営も、まったく同じ構造である。
最初のうちは、ほんの些細な変更に見える。
しかし、社長交代を重ねるうちに──
初代社長が掲げた“原則”は、5代目の頃にはまったく別のものになっている。
たとえば、
「前工程装置市場でNo.1の投資額を維持する」という“原則”を無視し、
前工程への投資を削り、数年後に伸びそうな後工程へ資金を回す。
あるいは、
「半導体製造装置向け継手で国内No.1企業になる」という“原則”を忘れ、
半導体製造装置では使われない汎用部品の案件を受注する。
こうして“原則”を失った会社は、
10年後、自社の強みが何だったのかすら分からなくなる。
そして、炭酸飲料の話と同じように──厄介なのはここだ。
1回の社長交代では、誰も“原則の変化”に気づけない。
社長が何人も代わり、5代目の頃になってようやく気づく。
「売上が落ちていた」「“原則”が変わっていた」
そして──「守るべきものを、守っていなかった」と。
まずやるべきは、前社長に“原則”を確認することだ
マーケティングの指針。投資判断の哲学。そして、顧客との距離感。
それらはすべて──「会社の売れる構造=“原則”」から生まれる。
そのため、社長就任の初日にやるべきことは、
経営会議でもなければ、IR資料の精読でもない。
まずは、前社長に電話せよ。
そして──これまでこの会社を率いてきたすべての社長たちに問うのだ。
「この会社が、ここまで大切にしてきた“原則”とは何ですか?」
──この問いこそが、あなたの会社の未来の売上を決める。
会社を動かすのは、戦略ではない。“原則”である。
どんなに優れた経営戦略やマーケティングも、
“原則”を踏まえていなければ、方向を誤る。
✔ 「社長交代」は、マーケティング戦略の断絶ポイントである。
✔ “原則”を承継せず、トレンドに流された会社は必ず崩壊する。
✔ たった一つの行動──前社長に“原則”を確認すること。それが未来を決める。
ここまで読んだあなたには、もう分かるはずだ。
あなたがこれから進むべき道は、ひとつしかない。
あなたはすでに、「今、何をすべきか?」を理解している。
あとは──迷わず、実行せよ。
それこそが、
競争の激しい半導体市場で卓越した成功を収めるための、
唯一のマーケティング戦略である。