もしあなたが──
「経営者たるもの、ポジティブ思考が必須だ」
「ネガティブな発言は社内の士気を下げるだけだ」
「どんな逆境も、前向きに挑めば道は拓ける」
──そう信じているのなら、今すぐその思考を捨てよ。
なぜなら、それこそが──
あなた自身も気づいていない、経営を蝕む“思考の落とし穴”だからだ。
つまり、ポジティブ思考こそが、企業経営における最も危険な毒なのである。
「なんとかなるさ」
「社員を信じよう」
「今は我慢のときだ」
──こうした“前向きな言葉”が、あなたの判断力を確実に鈍らせる。
現実を直視せず、
希望という名の妄想にすがり、
問題を軽視し、
対応を先延ばしにする。
そして気づいたときには、もう手遅れだ。
損失は膨らみ、現場は疲弊し、業績は見るも無惨な状態になる。
それでもあなたは、心のどこかでこう思っている。
「きっと何とかなる。まだ立て直せる」──と。
そう思ってしまうのには、理由がある。
それは、ポジティブ思考という“麻薬”が、
あなたの思考をじわじわと侵し、
現実感覚を完全に麻痺させているからだ。
そして──崩壊は、ある日突然やってくる。
社員たちが笑顔でタップダンスを踊っていた会社は、
次の瞬間──音を立てて、無惨に崩れ落ちる。
ポジティブ思考は戦略を腐らせる──ADEKAの失敗に学べ
あなたは「ポジティブ思考の力で会社は伸びる」と信じていないか?
だが──現実は、それほど甘くはない。
ポジティブ思考で成功した会社など、この世に存在しない。
その証拠に、ひとつ実例を紹介しよう。
半導体素材メーカー・ADEKAは、ポジティブ思考によって大きな失敗を犯した。関連記事:ADEKAの過ちから学べ!半導体企業が作ってはならないCMとは?
2022年12月28日──彼らは、実に60年ぶりにテレビCMを放映。
アイドルグループ・乃木坂46の元メンバー、生田絵梨花を起用し、
「地味だけど、スゴイ。」というキャッチコピーのもと、
認知度の向上、販売増加、そして半導体市場での競争力強化を狙った。
CMは確かに華やかだった。SNSでもそれなりに話題になり、
広告代理店や社内の関係者たちも、満足だったことだろう。
だが──
このCMは、ADEKAの競争力強化には一切つながっていない。
その最大の原因は、CMに対する評価基準が根本的に間違っていたことにある。
「成果」ではなく、「話題性」で良しとする風潮が、社内を支配していたのだ。
つまり、本来問うべきはこうだった。
「そのCMは、自社にどれだけの利益をもたらすのか?」
「そのCMによって、競合との差をどれだけ縮められるのか?」
「自社の強みを明確に伝え、競合の弱点をそれとなく暗示できているのか?」
答えは──すべて、NOである。
これは、ADEKAだけの問題ではない。
あなたの会社でも、すでに同じ過ちが静かに進行している可能性がある。
「なんとなく良さそうに見える」
「社員が喜んでいる」
「ポジティブな取り組みだから意味があるはずだ」
──そうした空気感に、知らぬ間に酔ってはいないか?
もし心当たりがあるのなら──
あなたの会社もまた静かに沈み始めている。
ADEKAとTSMC──“ポジティブ思考”と“事実思考”の差
ADEKAの経営陣は、こう考えたのだろう。
「人気タレント・生田絵梨花を起用すれば、ADEKAの認知度と好感度が上がる。
認知度と好感度が上がれば、売上が伸びる。売上が伸びれば、優秀な新卒学生も集まる。
つまり──会社の競争力も自然と高まっていくだろう」
この思考こそが、典型的な“ポジティブ思考の落とし穴”である。
たしかに、広告を打てば一時的に売上は伸びる。
会社の認知度も向上し、新卒応募者が増える可能性もある。
──ここまでが、“事実”だ。
問題はその先にある。
競争力は──
「売上」や「話題性」ではなく、「利益の拡大」によって実現される。
売上がいくら伸びても、広告費がそれ以上にかかれば利益は出ない。
利益がなければ、設備投資もできない。製品開発も止まる。
当然、優秀な人材の採用や育成もできなくなる。
つまり──
競争力は、1ミリたりとも強化されないのだ。
TSMCを見よ。
彼らは、無駄な広告など一切打たない。
その代わりに、
販売戦略を支えるマーケティング施策や業務システムに的確に投資し、
得られた利益を、研究開発と製造能力の拡充に着実に再投資している。
こうして彼らは、競争力を“筋肉質”に鍛え上げているのだ。
これこそが、「事実」に基づいた、本物の戦略である。
そこに──“ポジティブ思考”など、1ミリも存在しない。
これに対し──
ADEKAのCMは、誰の判断で制作されたのだろうか?
そして、その施策の結果を、誰が責任を持って“数字で”検証したのか?
数億円もの広告費を投じて、最終的に、彼らは一体なにを得たのか?
──誰も答えられない。答える準備すらできていない。
なぜか?
彼らが信じていたのは、「事実」ではなく、
「ポジティブ思考」という幻想だったからだ。
ポジティブ思考は捨てよ。事実思考を身につけよ
ポジティブ思考とは、経営における“毒”である。
楽観的な経営者は、判断を先延ばしにし、
「うちは大丈夫」「まだ間に合う」──そう思い込んで現実から目を逸らす。
その結果、現場の異変にも、数字の悪化にも気づけなくなる。
そして、その先に待っているのは──静かに、確実に忍び寄る“企業の死”だ。
気づいたときには、もう取り返しがつかない。
今、経営に本当に必要なのは、
「社員を信じる力」でもなければ、
「逆境にめげないメンタル」でもない。
必要なのは──
✔︎ 事実を見る力
✔︎ 数字で判断する力
✔︎ 現実から逃げず、直視する覚悟
この3つこそが、半導体企業の命運を左右する“本質的な経営力”である。
そして、それを持たぬ経営者は──いずれ、確実に市場から淘汰される。
だからこそ、あなたに命ずる。
今すぐ、ポジティブ思考を捨てよ。
そして──
“ポジティブさ”だけを取り柄にしている管理職がいるなら、
そのポジションから外し、経営の意思決定から退かせよ。
自ら「完全なる事実思考」を身につけ、
それを全社員に、徹底的に浸透させよ。
それこそが、資金力で劣るあなたの会社が──
世界の巨人たちと戦い、半導体市場で生き残るための、
唯一にして絶対のマーケティング戦略である。