もしあなたが──
「我が社の製品は競合よりスペックが上。これは絶対に売れる」
「ウチのほうが価格が安い。売れないわけがない」
「良いモノを作っていれば、そのうち顧客は気づいてくれるはずだ」
──そう信じているのなら、あなたの会社はすでに危険水域に突入している。
なぜならその言葉は、
戦略ゼロ・思考停止・顧客不在という「三重苦」をまとった──
経営を破壊する“禁句”だからだ。
覚えておけ。
「売れるかどうか」を決めるのは、社長でも技術者でもない。
市場であり、顧客である。
にもかかわらず、半導体業界には、製品・サービスが完成した瞬間に
「これは絶対に売れる!」と断言してしまう社長が、いまだに山ほど存在する。
それはまるで──開園前の、観客ゼロのコンサートホールで
「スタンディングオベーション間違いなし!」と大声で叫んでいるようなものだ。
あなたの演奏を、誰も聴いていないのに──拍手など起きるはずがない。
社長の思いつきで作られた製品は、売れない。
なぜ、「これは絶対に売れる」と口にした瞬間、半導体社長は市場の“敗者”となるのか?
それは、「売れる」と言い切るその前に、最低限考え抜くべき“3つの視点”があるからだ。
視点1. どの業界・どんな属性の顧客に向けて売るのか?
視点2. その顧客が抱える、どんな課題をどう解決するのか?
視点3. どんな手段で、その製品の価値を顧客に伝え、興味を持たせるのか?
──この3つが明確になっていなければ、製品は売れない。
いや、それ以前に──顧客に“売る”ことができないのだ。
だが現実には、多くの半導体企業が──この順番を、真逆にしてしまっている。
・社長のひらめきが、すべての起点になっている。
・技術者の情熱が、制御不能に膨れ上がる。
・開発部門が、自己満足の沼に沈む。
彼らは決まって、こう思い込んでいる。
「これは売れるはずだ」
「きっと需要はあるに違いない」と。
──だが、それはもうマーケティングではない。
それは“信仰”だ。現実から目を背けた、危険な自己暗示である。
例えるなら、こうだ──
自分の偏差値も知らずに、東大を受験する受験生。
分析なし。戦略なし。論理なし。
当然、結果はひとつしかない──戦う前から、負けは決まっている。
戦略なき製品は、経営の自傷行為である
では、経営者が真に向き合うべき問いとは何なのか?
「これは売れるだろうか?」──この問いは、一見正しそうでいて、
実は順番が違っている。あなたが今、真っ先に考えるべきはこの3つである。
1. この製品は、本当に顧客が“欲しているもの”と言えるか?
2. 顧客は今、どんな課題を抱え、それをどう解決したいと考えているのか?
3. 既存の競合製品に対して、顧客が感じている“物足りなさ”や“不満”はどこにあるのか?
これらの問いに明確な答えを持たないまま製品を開発するのは──
自ら失敗へ突き進むようなものである。
なぜなら、顧客不在の製品には、市場が存在しないからだ。
どれだけ技術的に優れていても、「誰の課題も解決しないもの」は売れようがない。
顧客の姿が見えないまま製品をつくることは、決して“挑戦”などではない。
称賛される美談でもない。それは無謀であり、愚かな判断だ。
経営者として致命的な戦術ミスにほかならない。
良い製品を作るな、顧客に“欲しい”と思わせる製品を作れ
あなたが経営者として本気で勝ちたいのなら──やるべきことはもう、決まっている。
✔︎ 顧客が“今、本当に”必要としている製品・サービスを調査せよ。
顧客の悩みも知らずに製品をつくるのは、相手の趣味も知らずに
プレゼントを贈るようなもの。喜ばれるどころか、見向きもされない。
✔︎ 顧客の「情報収集の流れ」を理解せよ。
顧客は、どこで何を調べ、どの企業と比較し、どんな基準で判断しているのか?──こう
した“購買プロセス”を把握しなければ、あなたの製品は顧客の関心すら得られずに終わる
✔︎「良い製品」をつくるな。「売れる製品」をつくれ。
営業が売り込まずとも、顧客のほうから問い合わせが来る──
そんな状態をつくり出せ。あなたが作りたいものではなく、顧客が求めるものをつくれ。
今、あなたに必要なのは──技術力でも、精鋭エンジニアでもない。
必要なのは、マーケティングであり、経営であり、戦略である。
技術と情熱は、たしかに強力な武器だ。
だが、それを顧客に届ける“弾道ミサイル”がなければ、
その武器は──無人島で振り回すだけの“竹やり”にすぎない。
最後に、はっきりと言おう。
「これは絶対に売れる」──
この言葉は、愚かな経営者が発する“思考停止の呪文”だ。
あなたが口にすべきは、こうである。
「顧客は、どんな製品を求めているのか?」
「この製品は、顧客のどんな課題を、どう解決できるのか?」
「もし解決できるなら、顧客はいくら支払ってくれるのか?」
──これが、優れた経営者が最初に発する“問い”である。
今こそ、あなたの経営に“戦略思考”を取り入れよ。
それが──競争の激しい半導体市場で、
あなたが勝ち続けるための唯一の選択肢である。