もしあなたが──
「阿部未悠の不倫さえなければ、ミネベアミツミは無傷だった」
「“トリプルボギー不倫”がミネベアミツミの信頼を失墜させた」
「女子プロとの契約が、ミネベアミツミのブランド価値を高めている」
──そんなふうに考えているのなら、今すぐその幻想を捨てよ。
2025年3月。ツアー優勝の実績もある人気女子プロゴルファー・阿部未悠が、
既婚男性キャディ・栗永遼との不倫関係を『週刊文春』に報じられた。
この報道を受け、ミネベアミツミの経営陣が激高したのは想像に難くない。
広告契約を結んだ選手がスキャンダルを起こせば、ブランドイメージに傷がつく──
そう受け止めるのは、ごく自然な経営者心理だ。
だが、断言しよう。
ミネベアミツミの“失敗”は、阿部未悠の不倫によって引き起こされたのではない。
企業としての判断ミス──それは今回の不倫騒動の、はるか前に起きていた。
2022年8月1日──女子プロゴルファーの阿部未悠、そして菊地絵理香との契約に、
「経営判断」として資金を投じたその瞬間から、すでに失敗は始まっていたのだ。
つまり、ミネベアミツミの“失態”の発端は、スキャンダルではない。
不倫報道はあくまで、
間違ったマーケティング投資がもたらした“当然の結末”にすぎないのだ。
だからこそ──今回の件で責められるべきは、阿部未悠ではない。
真に責任を負うべきは、2022年8月1日という分岐点で、
誤った意思決定を下したミネベアミツミの経営陣、そのものなのである。
そもそも──“好感度”は売上を生まない
ここで、改めて冷静に考えてほしい。
たとえそのゴルファーがどれほど可愛かろうと──
どれほど太ももを大胆に露出していようと──
その太もも目当てに、カメラを手にした1万人の男性ファンが殺到していようと──
果たしてその“ファン”たちは、ミネベアミツミの製品を購入するだろうか?
──いいや、買わない。そもそも、製品名すら認識していない可能性が高い。
それでも2022年8月1日、ミネベアミツミの経営陣はこう判断した──
「阿部未悠や菊地絵理香は好感度が高い。彼女たちと契約すれば、
我が社のブランド価値が上がるはずだ」と。
たしかに、彼女たちが高い人気を誇る女子プロゴルファーであることは間違いない。
しかし問題は──その人気が売上にどこまで貢献するのか?という点だ。
✔︎ どれだけの問い合わせを生んだのか?
✔︎ どれだけの資料請求につながったのか?
✔︎ どれだけの商談や受注、売上を引き寄せたのか?
──その問いに、明確な答えを出せる者は誰一人として存在しない。
マーケティングの専門家、実務家でもある私──田中レジナルドですらだ。
要するにこれは、
「KPI(評価指標)を設定できない広告」に対して、金を出したということ。
効果測定ができない広告は、マーケティングではない。ただのギャンブルである。
ここで、改めて問い直してほしい。
今回のミネベアミツミの“失態”は、阿部未悠の不倫が引き金だったのか?
──違う。
「効果が測れない広告」に経営陣が手を出したその瞬間に、
失敗はすでに始まっていたのだ。
マーケティングとは、広告の“効果を測る”行為だ
ここで話をあなた自身の会社にも引き寄せよう。
あなたは、以下の問いに、真正面から答えられるだろうか?
✔︎ 阿部未悠や菊地絵理香との契約は、いったい何件の受注につながったのか?
✔︎「ミネベアミツミレディス」を開催したことで、どれだけの新規客を獲得できたのか?
✔︎ 採用活動にどれほど貢献したのか?優秀な技術者や学生からの応募は増えたのか?
もし、これらの問いに対して定量的な根拠や実績を示せないのであれば、
その広告はもはや“投資”とは呼べない。
数字という裏付けがなければ、
どんなに見栄えのする広告でも、効果を検証することはできない。
つまり、KPI(評価指標)を設定できない広告に、ビジネスとしての正当性はないのだ。
それは、「数字で検証できない支出」──すなわち、経営資源の散財にほかならない。
そして、そのような施策は「マーケティング」や「経営判断」と呼ぶことはできない。
結局のところ──
それは単なる経営陣の“道楽”であり、
数字の裏付けを欠いた自己満足の「ブランドごっこ」に他ならないのだ。
広告予算は本来、
売上や採用といった具体的な成果を生むために投じられるべきものである。
とはいえ、現実には経営陣の私情が、企業の意思決定に影響を及ぼす場面も少なくない。
・自分が女子ゴルフを観るのが好きだから
・阿部未悠や菊地絵理香に“華”があるから
・男性社員からの評判がいいから
──そんな、ビジネス的根拠を一切持たない個人的な好みによって、数億円規模のマーケ
ティング費用を投じた時点で、ミネベアミツミの“失敗”はすでに確定していたのである。
だからこそ、忘れてはならない。
マーケティングとは、単に“広告を出すこと”ではない。
出した広告が、どれだけの成果を生んだのかを測ること──
それこそが、真のマーケティングなのである。
「効果が測定できる」ことだけに金を使え
今の時代、限られたリソースで結果を求められる中小企業にとって、
「成果が数値で把握できる施策」にしか、広告費を使うべきではない。
✔︎ 問い合わせ数
✔︎ 資料請求数
✔︎ 商談数
✔︎ 売上額
──これらはいずれも、広告の実際の効果を、具体的な数値で判断できる指標だ。
これこそが、本来、経営者が意思決定を下す際の判断材料となるべきものである。
YouTubeでバズった?
X(旧Twitter)で“いいね”がついた?
菊地絵理香の出産ニュースに温かいコメントが集まった?──だから何なのか。
そうした“気分が良くなるだけの施策”に、貴重な経営資源を注ぎ込んではならない。
あなたが問うべきは、ただ一つ──
「それは売上につながったのか?」という一点だけである。
今回のミネベアミツミの失態が私たちに突きつけた教訓は、きわめてシンプルだ。
“自己満足のための広告”に資金を投じてはいけない──それが、唯一にして普遍の原則である。
「イメージアップ」
「認知度向上」
「社内のモチベーション向上」──聞こえはいい。
しかし、それがどれだけの成果を生んだのか、あなたは説明できるのか?
効果が見えない広告は、じわじわと会社の体力を削り、
やがては社員の士気までも奪っていく。
だからこそ──
今こそ自社のマーケティングを見直し、問い直してほしい。
「その広告は、本当に成果を生んでいるのか?」と。
さあ、ミネベアミツミの失態を笑うのは、もう終わりにしよう。
他社の失敗は、ただ傍観して楽しむためにあるのではない。
自社が“同じ間違い”を繰り返さないための、実践的な教訓なのだ。
ミネベアミツミの失態を、他山の石とせよ。
それこそが──この熾烈な半導体市場で、
あなたの会社が生き残り、勝ち続けるための唯一の経営戦略である。