もし、社長であるあなたが──
「CMの制作費は高い。1本作れば十分だ」
「CMで有名人を使えば、技術力の高さは自然と伝わる」
「大手広告代理店に任せておけば、成功は間違いない」
──などと考えているのなら、今すぐその幻想を捨てよ。
CMを1本流しただけで売上が伸びるほど、ビジネスは単純ではない。
むしろ、それは“広告”という仕事を軽視した発想と言わざるを得ない。
そして実際、その甘い考えのもと見事に転んだ企業がある。
しかも、それは街角にあるような「経営に疎い」中小企業ではない。
年商1兆5000億円を誇る名門企業──ミネベアミツミ株式会社である。
彼らは2025年7月、元卓球日本代表・石川佳純を起用したCMを公開した。
そして本気でこう信じていた。
「このCMで販売が伸び、求人応募も増え、結果として自社の競争力が強化される」と。
だが現実は──
販売は伸びず、求人応募も増えず、競争力が高まることもなかった。
彼らは広告において、致命的なミスを犯していたのだ。
それは──
2025年7月にCMを制作し、その後2026年1月の今に至るまで、
“2本目のCMを作っていない”という、まさかの事実である。
「石川佳純CM」が示した、”伝わらない広告”の本質
ミネベアミツミが2025年7月に放映したCMには、
元卓球日本代表の石川佳純が起用されていた。
言うまでもなく、石川佳純は国民的な知名度と高い好感度を誇る存在であり、
現役を退いた今も、世代を問わず多くの人々から親しまれている。
だが、肝心なのはその内容だ。CMの中で──自社の製品やサービスについて一言も語られていない。
資料請求の案内もなければ、電話番号の掲載すらない。
視聴者に「何をしてほしいのか」が、まったく伝わってこないのだ。このCMが売上や求人応募、
株式購入といった具体的な行動につながる可能性は──限りなくゼロに等しい。
では、彼らはこのCMでいったい何を伝えたかったのか?
答えは、ひとつ。
それは「世界をこっそりごっそり変えていく」という、
耳ざわりのいいキャッチコピーだけである。
仮に──
この問題点を、ミネベアミツミのマーケティング担当者に指摘したとしよう。
おそらく、彼らの言い分はこうだろう。
「これは“ブランディングを意識したCM”です。
そのため、製品の案内は意図的に行っていません」
その瞬間、私は迷わずこう返す。
「あなたの“ブランディングCM”とやらは、広告としての最低条件すらクリアしていない」
そもそも、ブランディングCMとは何か?
それは──
✔︎ 面白い
✔︎ 感動する
✔︎ 記憶に残る
──そのすべてを通じて、視聴者の脳裏に“企業そのものの存在”を
深く焼き付けることを目的としたCMのことである。
だからこそ、制作者は自社製品や価格の説明にこだわるのではなく、
「あとから何度も思い出される」ような仕掛けづくりに全力を注ぐ。
そして、ブランディングCMで何より大切なのは──
1本きりではなく、何年にもわたって“シリーズとして作り続けること”である。
CMは、一度放映しただけでは、印象にも記憶にも残らない。
シリーズCMとして、何度も何度も繰り返し放送してはじめて──
ブランディングCMはようやく意味を持ち始めるのだ。
例を出そう。携帯大手・ソフトバンクの「白戸家シリーズ」──
彼らは1年に10本以上の新作を、
20年近くにわたりほぼ毎日のように放映している。
だからこそ、
「白戸家=ソフトバンク」という認知が、日本中に浸透しているのである。
では、ミネベアミツミはどうか?
CMは最初の1本きり。半年以上が経っても続編は一本もない。
これでは、「最初から広告を成功させる気がなかった」と言われても仕方がない。
例えるなら、こうだ。
試合会場には行った。ユニフォームも着た。試合にも出た。
だが──勝つつもりは、最初からなかった。
年間10本は最低ライン──ブランディングCMの基本原則
そもそも、ブランディングCMとは──
「視聴者の心に企業の存在を刻み込むための広告手法」である。
そして、それをしっかりと機能させたいなら、
最低でも年間10本以上のCMを制作・放映する必要がある。
なぜなら、視聴者の記憶に残すためには、以下の3つの要素が不可欠だからだ。
1. 頻度(継続的に新しいCMを制作し、何度も放送する)
2. 反復(一貫した企業メッセージを、繰り返し伝える)
3. 変化(視聴者を飽きさせず、常に興味を引きつける工夫を盛り込む)
この3つが揃ってはじめて、
「なんとなく見たことがある」という印象が「明確な記憶」へと変わり、やがて
「問い合わせ」「求人への応募」「購入」といった具体的な行動へとつながるのだ。
ここで、多くの経営者が勘違いしている点を、はっきりさせておこう。
ブランディングCMは──
✔︎ 製品やサービスの詳細を伝えなくてもよい。
✔︎ 有名人を起用して、世論の印象操作を狙ってもかまわない。
✔︎ 視聴者に対し、資料請求や求人応募など、直接的なアクションを促す必要もない。
だが、これらが機能するのは──CMが継続して放送されることが前提である。
たった1回の放映では、誰の印象にも残らない。
シリーズとして、定期的に、長期にわたって展開してはじめて、
ブランドは築かれていく。
その点で、ソフトバンクはまさに“教科書的存在”だ。
「白戸家シリーズ」は2007年6月からスタートし、
今に至るまで約20年にわたって新作を作り続けてきた。
これまでに何十本ものCMが制作され、何万回というレベルで放送されている。
だからこそ、「白戸家=ソフトバンク」というイメージは、日本中に深く浸透した。
印象が記憶となり、そして行動──
「ソフトバンクと契約する」という成果へとつながったのである。
では、ミネベアミツミはどうだったか?
2025年7月、石川佳純が「ミネベアミツミ」と口にするCMをたった1本だけ制作・放映。
現在放送されているのは、日本テレビ系列の「真相報道バンキシャ!」枠でのみ。
放送回数はごくわずかで、継続的な展開もなければ、シリーズ化もされなかった。
その結果、どうなったか?
視聴者の記憶には残らず、
見込み顧客は誰一人として動かず、
採用面でも、売上面でも、まったく成果が出なかった。
つまり、10億円以上の広告費が──“何のリターンもないまま”消えていったのである。
単発CMは企業の時間と金を無駄にする
あなたが、ブランディングCMで本気の成果を狙うのであれば──
「1本だけ作って終わり」では、そもそも勝負の土俵にすら立てていない。
それは、単なる自己満足にすぎず、見込み客の心にも、記憶にも、何ひとつ残らない。
伝えたいメッセージは伝わらず、視聴者から期待するような行動や反応も生まれない。
最終的には、“何を言いたいのか分からない映像作品”として終わってしまう。
言い換えれば──学園祭で身内に見せる自主制作ムービーと何ら変わらないのだ。
では、どうすればブランディングCMを「投資に見合う施策」に変えられるのか?
もしあなたが、有名人を起用したCMで、自社の成長を本気で狙うのなら──
✔︎ 最低でも、年に10本以上のCMを制作すること
✔︎ すべてのCMで、一貫した企業メッセージを繰り返し伝えること
✔︎ それを数年間にわたって、継続的に放送し続けること
──この「継続」と「反復」の積み重ねこそが、
CMを見込み客の記憶に深く刻み込むための絶対条件である。
つまり、ブランディングCMとは──
“継続する覚悟”と、“長く続けられる資金力”があって
初めて機能するものなのだ。
だからこそ、はっきりと伝えたい。
広告は、一瞬の派手さで勝負が決まる「打ち上げ花火」ではない。
広告は、顧客の意識にじわじわと浸透させる“ボディブロー型の戦術”なのだ。
こうした継続的な投資が難しいのであれば──
最初からブランディングCMに手を出すべきではない。
単発で成果が出るほど、広告の世界は甘くはない。
つまり、ブランディングCMに挑むのなら──“予算”と“覚悟”の両方が不可欠である。
そのいずれも用意できないのなら、絶対に手を出してはならない。
それでもなお、「うちもミネベアミツミのようなCMを作りましょう」と
軽々しく提案する経営陣が社内にいるのなら──その提案は即座に却下せよ。
広告とは、見た目の華やかさではなく「成果を出す仕組み」であり、
それを無視した意思決定は、
会社の資金と時間を溶かす行為にほかならないからだ。
では、今あなたがやるべきことは何か?
それは──マーケティングの原理原則に基づいたCMをつくることである。
✔︎ 自社製品やサービスの「強み」を明確に伝える
✔︎ 他社との違いや価格といった「差別化要素」をはっきり示す
✔︎ 視聴者に対して「次のアクション(資料請求・問い合わせなど)」を促す
──こうした要素を、誰にでも理解できる言葉で、ストレートに伝えるCMを作ること。
それこそが──
資金力で劣る中小企業が、大企業と真っ向から戦うための、
唯一無二の戦略である。