もしあなたが──
「ラピダスは、TSMCに先んじて2nmを量産できるのか?」
「TSMCのように安く2nmを量産できないラピダスに、勝ち目はあるのか?」
「ラピダスは、TSMCが取りこぼした隙間市場で成果を上げることができるのか?」
などと本気で考えているのなら──今すぐ経営者の椅子を降り、後進に道を譲れ。
なぜなら、ラピダスとTSMCは、そもそも競合ですらないからだ。
ビジネスモデルも、狙っている市場も、提供しようとする価値も──すべてが異なる。
だからこそ、「勝てるか・負けるか」という問いそのものが、議論として破綻している。
この基本認識がないままに、テレビニュースや新聞、あるいは薄っぺらい
ユーチューバーの解説動画を鵜呑みにするのは、“フェイクニュース”
と大きく書かれた新聞を、自ら金を払って読み続けるようなものだ。
──そう、問題の本質は「無知」ではない。
真相を検証しようとせず、理解する努力を怠ったまま発信を続ける
マスコミの姿勢こそが、事態を歪めている元凶なのだ。
ラピダスの戦略を検証することもなく、
あたかも真相をすべて把握しているかのように語るコメンテーターをずらりと並べ、
ただ視聴率を稼ぐためだけに番組を組む──
それこそがマスコミが陥っている深刻な機能不全であり、
“情報産業”としての存在意義が揺らいでいることの現れなのである。
そしてあなた自身も──その空気に知らぬ間に染まってはいないか?
思考を止めた瞬間、あなたの会社は静かに、だが確実に崩れ始める。参考記事:原因は“戦略の未熟さ”にあり──ラピダスが顧客獲得に苦しむ最大の理由参考記事:“成果報酬型CM”で挽回せよ!ラピダスが顧客獲得のためにすべきたった1つのこと参考記事:2nmは法人PCメーカーに売れ──劣勢ラピダスが今選ぶべき唯一の戦略とは?
「ラピダス vs TSMC」構図は誤認である
ラピダスとTSMCは、そもそも競合関係ですらない。
では、なぜこれほどまでに「勝ち負け」の誤解が広がってしまったのか?
──答えは単純だ。
原因は、マスコミがラピダスの戦略をまったく理解できていないことにある。
テレビや新聞、あるいは浅薄なユーチューバーたちは、今日もこう語る。
・「ラピダスはTSMCの揺るぎない牙城を本当に崩せるのか?」
・「TSMCに追いつき、日の丸半導体を再び世界の舞台に押し上げられるのか?」
・「ラピダスはTSMCと真っ向から渡り合える企業になれるのか?」
──ハッキリ言おう。的外れにもほどがある。
それは、F1カーとマラソン選手に同じトラックを走らせて、
「どちらが速いか」と比較するようなものだ。
スピードも、性能も、目的も──すべてが違う。
いや、それ以前に、両者はそもそも“別の競技”をしているのだ。
にもかかわらず、日本のメディアは、
ラピダスを「TSMCの後追い企業」として報じ続けている。
まるでラピダスが、
TSMCと同じ市場、同じ戦略、同じ条件で
争っているかのように扱っているのだ。
だが──その前提自体が、根本的に間違っている。
もし経営者であるあなたまでもが、その歪んだレンズでラピダスの戦略を見て
しまえば、あなた自身の経営判断も、描くべき未来も、大きく見誤ることになる。
ラピダスとTSMCは、そもそもの「戦略」が違う
ラピダスとTSMCを比較しようとするのなら──
まずは両社の戦略が根本的に異なるという事実を、
正しく理解するところから始めなければならない。
この違いは、単なる技術力の優劣でも、
国から受けている支援金の多さでもない。
本質的な違いは、どのように勝利を目指すかという思考の枠組み──
つまりマーケティング戦略の設計思想そのものにある。
そもそも、TSMCとはどんな企業か?
世界最大のファウンドリ(受託製造企業)であり、
「少品種 × 超大量生産 × 圧倒的な低コスト」を武器に、
AppleやNVIDIAのような世界的企業の巨大な需要に応えている。
TSMCの強みは、製造工程の信頼性と、
量産によって得られる圧倒的なコスト競争力にある。
スピードや柔軟な対応にはやや弱さがあるものの、
大量供給と価格優位性で市場を制するモデルを構築している。
たとえるなら、半導体業界の巨大ショッピングモールだ。
同じ製品を、世界中のあらゆる顧客に、安く・確実に、
そして安定したペースで届けるために作り込まれた、
大量生産を主軸としたマーケティング戦略と言える。
では、ラピダスはどうか?
ラピダスは、最先端ロジック半導体に特化した研究開発型の製造企業だ。
「多品種 × 少量生産 × 高価格」を基本とし、
顧客を“発注者”ではなく、製品を共に設計・開発するパートナーとして位置づけている。
量産や納品をゴールとするのではなく、
試作や設計の初期段階から顧客と深く関わる──
それがラピダスの共創型ビジネスの本質だ。
巨大な工場(ファブ)を自社では持たず、
国家支援と、外部の技術者・研究機関との連携を活用し、
小回りのきく開発体制によって、柔軟かつスピーディーな供給を実現する。
TSMCでは対応しきれないような、納期が非常に短い案件や、
最先端技術が求められる場面において、短期間で2nmチップを届ける──
まさにその領域こそが、ラピダスが力を発揮できるポジションなのだ。
たとえるなら、少量生産で高性能を追求するフェラーリのような存在。
あるいは、未来技術の創造を担うNASAのような存在に近い。
重視されるのは価格ではなく、
いかに早く・確実に、顧客企業のイノベーションを生み出せるかである。
ラピダスが成果を出せば、顧客企業の事業そのものが大きく飛躍する。
逆に失敗すれば、顧客はTSMCという“いつも通り”の選択肢に戻るしかなく、
再び競合ひしめくレッドオーシャンでの「消耗戦」に明け暮れることになる。
実際、TSMCの顧客には、AppleやNVIDIAといった
世界トップクラスの企業が名を連ねている。
しかしラピダスがターゲットとしているのは、
そのAppleやNVIDIAに並び、あるいは追い越そうとする企業群。
つまり、競合よりも早く技術革新を実現したい企業の最先端プロジェクトに、
ラピダスは中核パートナーとして関わろうとしているのだ。
まとめると──
TSMCは「汎用の2nm半導体を、どこよりも安く、大量に届けられる会社」。
ラピダスは「カスタムの2nm半導体を、TSMCよりも早く提供できる会社」。
このように、ラピダスとTSMCは、
ビジネスモデルも、ターゲットとする市場も、顧客との関係性も、
根本から異なっている。
にもかかわらず、両者を同じテーブルに並べて
「どちらが勝つのか?」といった議論を展開している時点で──
あなた自身が“戦略”や“経営”の本質を理解していないことを、
自ら明らかにしてしまっているようなものだ。
「TSMCに勝てるか?」という疑問が、あなたを敗北に導く
「ラピダスはTSMCの強固な牙城を崩せずに敗退する。国の投資は無駄に終わる」
「ラピダスは2nm開発で後れを取り、最終的にTSMCに敗れる」
「今すぐに、TSMCの手が回らない隙間市場を狙って、顧客を確保すべきだ」
──こうした論調を、マスコミや新聞、さらにはYouTuberたちが繰り返し発信している。
だが、これらは表層的な意見に過ぎず、本質に迫っていない。耳を傾けるだけ時間の無駄だ。
私が本当に危惧しているのは──
こうした短絡的な見解を鵜呑みにし、自社の戦略設計の出発点にしてしまう、
あなた自身の経営スタンスそのものである。
そのような前提で組み立てられた戦略は、出発点の時点で方向を誤っており、
時間をかけるほどに、企業を内側から消耗させていく。
そもそも、ラピダスの戦略はTSMCに正面から勝負を挑むものではない。
TSMCが注力していない領域に焦点を絞り、自社の価値を活かせる市場を切り拓く──
そこに“勝ち筋”があるのだ。
そして、この考え方は、あなたの会社にもそのまま当てはまる。
相手が圧倒的な資本力やシェアを持つ巨大企業であるのなら──
同じ土俵、同じ条件、同じコスト構造で戦おうとすること自体が、敗北の始まりである。
だからこそ──
自社ならではの市場、自社にしか提供できない価値、
そして競合とは異なる「戦い方の設計図」を持たなければならない。
もちろん、ラピダスの経営陣が“マーケティングの達人”などと言うつもりはない。
むしろ、その視点に欠けていると評価されても仕方がないギリギリの地点にいる。
しかしそれでも、
「TSMCとは別のフィールドで勝負する」という構想段階の判断だけは、
マーケティングの原則に忠実であり、極めて理にかなった選択だった。
その決断があったからこそ、
ラピダスは今、競争のスタートラインに立てているのだ。
仮に彼らが、
「TSMCの顧客を奪い、より高性能な2nmチップを、より安価に大量供給します」
などという戦略を掲げていたなら──
その瞬間から、プロジェクトは崩壊に向かっていたに違いない。
だからこそ、最後にはっきりと伝えたい。
経営者人生の全てを賭けて、戦略を学べ。経営を学べ。マーケティングを学べ。
そして──誤った前提に基づいた意思決定は、今この瞬間からやめるべきだ。
それこそが──
この“資本主義という戦場”において、あなたが生き残り、
そして勝ち続けるための唯一の経営判断である。