もし社長であるあなたが──
「ミネベアミツミのように石川佳純を起用すれば、市場での存在感が増す」
「今こそブランディングCMで“脱・半導体企業”を狙うべきだ」
「とりあえず大手代理店にCMを発注して、自社のイメージを変えたい」

そう考えているのなら──あなたは静かに、だが確実に、敗北への道を歩み始めている。

華やかなテレビCM。知名度のあるタレント。プロが手がけた洗練されたBGM。
それらに自社の未来を託そうとしている時点で、危険信号はすでに点滅しているからだ。

だからこそ、あえて問いたい。
あなたが夢見るその広告は、決裁権者の心を動かし、
契約へとつながる“きっかけ”になり得るだろうか?

──残念ながら、答えは「NO」だ。

広告は魔法ではない。
中身のない製品、顧客の課題を解決できないサービスに
いくら光を当てたところで、売れるはずがない。

そしてその現実を、身をもって証明したのが──
年商1兆5000億円企業・ミネベアミツミ(株)が自信満々に世に放った、
元卓球日本代表・石川佳純を起用したテレビCMである。

“世界を変える”と言いながら、何も伝わらなかった広告

あなたも見たはずだ。
2023年、ミネベアミツミが元卓球日本代表・石川佳純を起用して放送したテレビCM。

「世界を こっそり ごっそり変えていく。」──
社員たちが知恵を絞った“つもり”の、自己満足スローガンを掲げ、
石川佳純が「ミネベアミツミ」と繰り返す──あのCMである。

だが、結果はどうだったか?

売れない。話題にならない。印象にも残らない。
──顧客の購買判断にも、意思決定にも、なんら影響を与えなかった。

このCM、制作費は数億円とも言われている。
しかも、日本テレビ系列『真相報道バンキシャ!』という日曜18時の一等地枠で、
現在も放送が続いている。

広告費の総額は、少なく見積もっても10億円超え──
もはや“国家予算レベル”の大盤振る舞いだ。

ミネベアミツミの経営陣と社員たちは、誇りを持ってこのCMを作ったのだろう。
だが、現場を知るマーケティング関係者の評価は、こうだ。

・「一体、何を売りたいのかが、まったくわからない」
・「製品の強みが1ミリも伝わってこない」
・「誰に向けたCMなんだ? 顧客か? 株主か? 就活生か?」
・「広告代理店の口車に乗せられたか…また1社、やられたな」

これが、現実である。

「CMを打つ=売れる」なんて時代は、もう終わった。
いや、そもそも──そんな時代など、一度たりとも存在していない。

広告=武器ではない。本当の武器は製品・サービスだ。

なぜ、ミネベアミツミのCMは、これほどまでの失敗につながったのか?
その答えは──
ミネベアミツミ経営陣が、「広告とは何か」を根本的に誤解していたことにある。

広告は、製品やサービスの価値を“新しくつくる”ものではない。  
すでに備わっている価値を、より多くの人に“正しく届ける”ための手段にすぎない。

言い換えれば──広告とは、企業が使う「販売とマーケティングの拡声器」である。
そして重要なのは──その拡声器で「何を増幅しているのか」という点だ。

✔︎ 製品の価値が高ければ、広告はその魅力を一気に広げ、顧客の心を強く揺さぶる。
✔︎ 逆に、製品の価値が低ければ、広告はその欠点や曖昧さまでを大音量で世間にさらす。
✔︎ しかも──期待外れの製品を買わされた顧客は、平均13人にその不満を広める

つまり広告とは、企業の“中身”を世間に響かせてしまう、極めて正直な営業装置なのだ。
そのため、中身が誠実なら評価されるが、腐っていれば、その腐臭ごと拡散される。

たとえば──製品に、顧客のビジネスを前進させるだけの価値がない。 
サービスは未熟。唯一の強みは「大企業」という看板だけ。
従業員の態度も悪く、自社のGoogleマップには★1レビューが並ぶ。

──そんな企業が「そろそろブランディングCMでもやるか」と言い出すのは、  
エンジンの積まれていないフェラーリを、サーキットに送り出すようなものだ。
確かに、見た目はカッコいい。だが──1ミリも動かない。

そして、行き着く先はこうなる。 
「あの会社、何を考えてるんだ?」と、業界で冷笑され、信用を失う。
その評価は、営業現場にも、採用活動にも、価格交渉にも、確実に悪影響を及ぼしていく。

いいか?広告は、あなたの会社の“武器”ではない。
本当の武器は、あなたが作る製品、あなたが提供するサービス。
それだけが、市場という名の戦場で使える──唯一の“実弾”なのだ。

まずは製品を磨け──広告はその“証明”として使うべきだ

では今、ミネベアミツミが最優先で取り組むべきことは何か?

答えは、極めてシンプルだ。
石川佳純を起用したCMをつくるより先に、
製品・サービスの価値を徹底的に高めること。

そしてもう一つ。
全社員に、社会人としての基本的なマナーと──
広告代理店の提案に振り回されない程度のマーケティング知識を、
しっかりと身につけさせること。

この原則は、あなたの会社にもそのまま当てはまる。
まずは、以下を自社に問いかけてほしい。

✔︎ あなたの製品・サービスは、顧客企業の売上向上に本当に貢献できているか?
✔︎ その製品やサービスは、顧客が抱える課題や悩みを的確に解決できているか?
✔︎ 競合他社と比べて明確な技術優位性があり、それを“数値”や“実績”で説明できるか?

これらすべてに、自信と根拠を持って「Yes」と答えられるようになって、
はじめて広告を使うべきだ。美人女優と契約するのも、それからでいい。

それまでは、どんなに洗練された広告を作っても、
成果には結びつかず──すべて“浪費”で終わる。

そして、あなた自身も、社員たちも、
「中身のない会社」として業界から冷ややかな視線を向けられることになる。

最後に、はっきりと言おう。

ミネベアミツミはCMを打っても、なぜ売上が変わらなかったのか?

理由はひとつ。
顧客にとって本質的な価値を持つ製品を生み出さず、
サービスの質も高めないまま、外見だけを取り繕ったからだ。

ブランディングCMとは、すでに製品力・技術力を備えた企業が、
その信頼性と優位性を“証明”するために使う、最後の切り札にすぎない。

果たして、あなたの会社は、
その「最後の一手」に踏み切るだけの準備が整っているだろうか?
──まずは、そこから問い直してほしい。

そして、この原則を胸に刻んでほしい。
「まずは製品を武器にせよ。広告は、その仕上げとして使え。」

それこそが──
あなたがミネベアミツミのような“失敗”を繰り返すことなく、
成功への最短ルートを突き進むための、唯一にして本質的な経営戦略である。