もし、
あなたの会社の営業担当が「うちは他社より安いです!」と
胸を張って顧客に説明しているのなら──
その瞬間、
あなたの会社は“価格でしか選ばれない存在”へと、自ら転落している。
それは、ただの営業トークでは済まされない。
それは、未来の利益を、企業の体力を、そして技術者たちの時間と誇りを──
「安さ」という名のナイフで、じわじわと削り落としていく自傷行為に他ならない。
たしかに、昔はそれでも通用した。
商社が案件を運び、営業が足で稼ぎ、技術で勝負する。
「良いモノを、安く、真面目に作れば売れる」──そんな時代が確かにあった。
だが、今は違う。
現在の半導体市場は、“情報戦”と“ブランド戦略”のフィールドで展開されている。
買い手はすでにネットで比較を終え、情報武装した状態で営業に接触してくる。
つまり、営業がどれだけ走っても──その前のステージで、勝負は決している。
それなのに、まだ「最安値を出せば勝てる」と信じているのなら──
それは、ハンディなしでタイガー・ウッズにゴルフ勝負を挑むようなものだ。
勝てるはずがない。いや、そもそも勝負の土俵にすら上がれていない。
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3つの悪しき信仰が、あなたの会社を内側から蝕んでいる
1. 「最安値信仰」──営業が“値引き”しか武器を持たない
営業にとって“値引き”は、最もラクで、最も堕落的な逃げ道である。
「競合より1円でも安ければ勝てる」という思考は、
まさに“安売り依存症”の初期症状だ。
値下げは、一見すると即効性のある戦術に見える。
だが、実際には、企業の体力をじわじわと削る毒入りカプセルに過ぎない。
値下げをすれば利益率は縮小する。
利益が減少すれば、当然ながら新規開発への投資は止まる。
新規開発が止まれば、製品は陳腐化し、さらに値下げしなければ売れなくなる。
結果、企業の競争力は雪崩のように崩れていく。
それでも営業は、値下げを繰り返す。
なぜか?
“他に売る手段を持っていない”からだ。
気づけば会社は、疲弊した安売り体質という病巣にどっぷりと浸かっている。
もはや、抜け出す力すら残っていない。
覚えておけ。
価格競争の勝者は、たった1社。
あとのすべては、“価格で負けた敗者”だ。
あなたの会社が、“その他大勢”に沈む必要はない。
2. 「技術だけで勝てる幻想」──製品が良ければ自然に売れると思っている
もちろん、あなたの会社には優れた製品・サービスがあるのだろう。
世界に誇れる独自技術、長年かけて築いた製造ノウハウ、他社にない回路設計。
──その努力は、誰も否定しない。
だが、それだけでは足りない。
あなたの会社に足りていないのは“伝え方”である。
問題は技術の良し悪しではない。
「その価値を、誰に、どう伝えているのか?」──これこそが、勝負の分かれ目だ。
たとえば、NVIDIAやTSMCがなぜ世界を席巻しているのか?
“技術が優れている”というのは、もはや当たり前の話だ。
彼らの真の強さは、技術の価値を「伝える力」にある。
彼らは、
複雑な技術を自社以外の人間(顧客)にもわかる言葉に落とし込み、
顧客の悩みや課題に結びつけて、提示する力を持っている。
その結果、
「欲しい」「契約したい」「製造をお願いしたい」と
思わせる土壌を、戦う前から整えているのだ。
だからこそ断言しよう。
技術を伝えられなければ、その技術は存在していないのと同じである。
今の時代、“良いモノ”が売れるのではない。
“良さが伝わるモノ”だけが選ばれるのだ。
3.「営業頼みの体質」──マーケティングを“広告”と誤解している
「うちはキオクシアのような大企業じゃない。広告なんて不要だ」
「マーケティング?テレビCMで芸能人を起用するような話だろ?」
「SNSなんて若者の暇つぶし。半導体企業のうちには関係ない」
──そう思っているのなら、あなたは完全に時代に取り残されている。
いま求められているのは、“マーケティングごっこ”をやることではない。
マーケティングの本質は、“仕組みで売る”ことである。
本物のマーケティングとは、
営業が売り込まなくても、顧客のほうから問い合わせが来る状態を作ること。
「認知→興味→検討→接触」というプロセス全体を設計し、
営業が動く前に、買う理由と期待を顧客の心の中にセットしておく──
それがマーケティングだ。
たとえるなら、営業は“剣”だ。前線で戦う武器。
だが剣だけでは勝てない。
マーケティングは、“盾”として営業を守り、
“地雷”として敵陣を先に崩しておく役割を担う。
戦場(市場)に出る前に、すでに勝負を決めておく。
これが、マーケティング戦略のある企業のやり方だ。
マーケティング主導の“高くても売れる仕組み”に変えよ
ここまでの話を読み進めてきたあなたは、こう思ったかもしれない。
「たしかにウチも最安値アピールばかりしている……でも、じゃあ何をどう変えればいいのか?」
「営業に“値下げ”以外の武器を持たせるには、具体的にどうすればいい?」
その問いに対する答えは、はっきりしている。
営業スタイルそのものを、“価格依存型”から“価値提案型”へと抜本的に転換せよ。
これからの時代、必要なのは──
「値下げを前提にした提案」ではなく、「なぜ自社半導体が必要なのか」を語れる仕組みだ。
そのために、いますぐ実行すべき具体施策は以下の通りだ──
1.差別化を伝える仕組み
✔ 自社の強みや技術優位性を言語化し、検索に拾わせる「技術ブログ」
✔ 顧客の課題や悩みに直結する解決策を提示する「ホワイトペーパー」
2.顧客を獲得する仕組み
✔ 製品・サービスへの問い合わせや資料請求を狙う「ランディングページ」
✔ 複雑な技術や、製品の構造・特性を視覚的に伝える「セールス動画」
3.潜在層・既存顧客との接点を増やす仕組み
✔ “知らない相手”に自社を認知させる「YouTube広告」
✔ 既存顧客との関係性を深める「メールマーケティング」
これらは決して「販促用の飾り」ではない。
単なる情報発信でもなければ、見栄えを整える装飾でもない。
“価格ではなく価値で勝つ”ための、成果直結型の実戦装備である。
営業社員に販促用のパンフレットを手渡す時代は終わった。
今必要なのは、“売らずに売る”ためのマーケティング武装だ。
正しい差別化ができれば、“高くても売れる”企業になれる
こうした“仕組み”を整えれば、営業の現場は劇的に変わる。
もう、「他社より安くします」と頭を下げる必要はない。
代わりに、営業はこう切り出せるようになる。
「弊社半導体を、御社の製品にどう組み込みましょうか?」──
価格ではなく、“使い方”で価値を示す営業ができるようになる。
この変化は、顧客の見る目を根本から変える。その結果──
あなたの会社は、もはや「比較対象のひとつ」ではなくなる。
「単なるサプライヤー」ではなく、「相談すべきパートナー」として扱われるからだ。
さらには、
「技術の価値を導き出せる、業界の専門家」としての信頼も勝ち取ることもできる。
そして、あなたの会社は──
“高くても売れる”企業へと、完全に生まれ変わる。
最後にもう一度、問おう。
あなたの営業チームは、今、顧客に“価値”を売っているだろうか?
それとも、
価格でしか勝てない敗北者の道を、今日も歩いているのだろうか?
最安値アピールは、今すぐやめろ。
価格競争の勝者は、たった1社しかいない。
あなたの会社が生き残るために、勝ち続けるために必要なのは──
“差別化という戦略”を武器にした、本物のマーケティングである。
それこそが、価格競争という泥沼から抜け出す、唯一にして最短の道なのだ。