中小半導体企業が勝ちたいのなら、他社とバーターせよ
「人が足りない」「金がない」「設備が眠っている」──
そんな嘆きは、もはや中小半導体企業にとって“あるある”を超えて、“日常”である。
だが、嘆いているだけでは何も変わらない。
「ないもの」に悩むより、「あるもの」に目を向けろ。
✔️ 使われずに眠る有休設備
✔️ ラインから外された旧型装置
✔️ 埃をかぶった測定器・検査機器
✔️ 稼働率が落ちた開発エリア
これらはすべて、視点を変えれば“交換可能な資源”=バーター資源である。
マーケティング予算がなくても、人員が足りなくても、「モノ」があれば交渉できる。
いま、あなたに求められるのは、“それを必要としている他社”と交換する発想力だ。
中小半導体企業がこの乱戦市場を生き抜く手段は、「提携」でも「外注」でもない。
“バーター”である。
目次
社内リソースだけで戦うのは、
ピッチャーが1人で試合をやろうとするようなもの
マーケティング、製品開発、試作評価、製造、物流、営業、広報…。
これらすべてを1社で完結させようとする時代は、とうに終わった。
かつてのような垂直統合が機能したのは、昭和の話だ。
令和の競争ルールは、「水平分業」と「共創」──これが基本である。
にもかかわらず、多くの中小半導体企業はいまだに、
「全部自前でやらねば」という思い込みの檻から抜け出せていない。
あなたの会社も、こんな状態に陥っていないか?
・営業部しかいない。マーケティングは誰もやっていない
・評価装置がなく、試作検証はいつも後回し
・高額な旧型装置が倉庫の隅で眠っている
・技術力はあるが、社外に伝える人材がいない
この状態で、「大手と戦う」などと語れば、笑われて終わりだ。
必要なのは、「何ができるか」を自慢げに語ることではない。
「何が足りないか」を見極め、
その欠けたピースを、他社の余剰リソースで埋める視点である。
たとえるなら──
今のあなたの会社は、ピッチャーが9回を投げきるだけでなく、打席にも立ち、
盗塁を決め、さらに外野の守備までこなそうとしているようなものなのだ。
そんなチームが、勝てるわけがない。
それでも勝ちたいならどうするか?
自分ができないポジションは、他の選手=他社と組んで補うしかないのだ。
倉庫に置いてある装置が“フォトレジスト”に化けた──
半導体企業とフォトレジスト企業のバーター取引例
ある地方の中小半導体企業。
その倉庫には、10年以上前に購入した旧型のスパッタリング装置が、
埃をかぶったまま眠っていた。
性能自体に問題はなかったが、現在の製造ラインでは用途がなく、
撤去にもコストがかかる。──まさに、完璧な“死に資産”だった。
だが、ある日、営業部の若手社員がこう口にした。
「この装置、フォトレジストメーカーが欲しがるかもしれません」
調査を進めると、確かにそうだった。
多くのフォトレジスト開発企業は、
半導体プロセスの評価設備を持たず、外注依存の状態。
装置を借りるたびに時間もコストもかかり、開発スピードは致命的に遅れていた。
ここで両社の思惑が一致する。
装置はあるが使っていない企業と、装置がなくて困っている企業。
彼らが実行したのは、現金ゼロ・即効性アリの、極めてシンプルなバーター取引だった。
✔️ 半導体企業は、旧型スパッタリング装置を“無償”で貸与
✔️ フォトレジストメーカーは、その装置で試作と性能評価を実施
✔️ 見返りとして、開発途中のフォトレジストを“無料”で提供
✔️ 評価データは双方で活用し、展示会・営業資料にも転用
こうして、“倉庫の肥やし”だった旧式の装置が、
フォトレジストという新たな価値に姿を変えた。
結果──
フォトレジストメーカーは、開発期間を劇的に短縮。
装置を提供した半導体企業は、
ゼロ円で材料(フォトレジスト)を入手し、販路開拓の武器を手に入れた。
この取り組みで、両社は「資金を1円も使わずに」、
市場での競争力と新規顧客との接点を獲得したのである。
使わない設備は、眠らせれば損失。動かせば資産。
そして、“交換”すれば、最前線の営業兵器になる。
バーターは「節約術」ではない──“勝つための戦略”である
中小半導体企業が、この荒れ狂う市場を生き抜くために必要なのは、
「リソースを増やすこと」ではない。
予算を増やし、人材を雇い、設備を刷新する──
そんな“重装備の戦い方”が許されるのは、体力のある一部の大企業だけだ。
だからこそ、あなたが今すぐに考えるべきはこうだ。
✔️ 社内に眠っている資源を、どう起こすか?
✔️ 他社が持て余しているリソースを、どう巻き込むか?
✔️ それらを“どう交換”すれば、最速で成果に変わるのか?
この発想こそが、マーケティングの出発点であり、事業を前に進める突破口である。
「外注するか?」「銀行に頭を下げて、融資を頼むか?」
「補助金に期待するか?」「役所の制度にすがるか?」──
そんな悠長な手段では、間に合わない。
今この瞬間に、ゼロ円でスタートでき、即効性がある──
それが、“バーター戦略”なのだ。
装置があるのに眠らせているのなら、今すぐ動かせ。
人がいるのに役割を与えてないのなら、今すぐ役割を与えろ。
資産に価値がないのではない。
動かしていないから、“価値になっていない”だけなのだ。