もしあなたが──
「企業スローガンは売上アップにつながる」
「スローガンは社員の士気を高めるためのものだ」
「スローガンがあれば、他社との差別化ができる」
──などと思っているのなら、それは致命的な誤解である。
なぜか?
その思い込みこそが、“競争力低下”への第一歩だからだ。
もっと言おう。
その考えのままでは、あなたの会社のキャッシュフローは鈍化し、
ブランドの価値はぼやけ、市場における立ち位置も徐々に失われていく。
そして今、そんな“失態”を
全国放送という逃げ場のない公の舞台で堂々と晒してしまったのが──
年商1兆5000億円の巨大企業、ミネベアミツミ株式会社である。
令和の半導体市場では、スローガンは“美辞麗句”であってはならない。
顧客に「選ばれる理由」を、3秒で伝える武器でなければならないのだ。
スローガンに“顧客視点”がなければ、企業は確実に衰退する。
その衰退は、静かに進みながら、確実に企業の体力を奪っていく。
売上やシェアといった“数字”に現れた時には──もう手遅れだ。関連記事:ミネベアミツミの失敗CMに学べ──放送前から“失敗確定”だった3つの理由とは?
関連記事:やってしまったミネベアミツミ──ターゲットなき広告が生み出す悲劇とは?
自己満足スローガンが、企業の競争力を低下させる
スローガンとは、端的に言えば「企業の約束」である。
だが、それは社内向けの“士気を高めるためのメッセージ”ではない。
本来、スローガンとは──
“顧客に対して、何をどう提供するのか”という宣言文だ。
つまり、「我々はこう考えている」ではなく、
「あなたに、これを提供する」といった、
顧客の利益に直結した言葉でなければ意味がない。
にもかかわらず、今なお多くの企業が、
「夢」「挑戦」「社会への貢献」など、
抽象的で感情的な言葉にしがみついている。
確かに、耳障りはいい。
だが──そんな言葉に、顧客は一円たりとも払わない。
製造業、とりわけ半導体業界のようなBtoB市場では、
決裁者は“論理と利益”でしか動かない。
どれだけ美しい理念を並べ立てようとも、
「それが、私たちにどんな利益をもたらすのか?」が見えなければ、
契約には結びつかない。
そのため、
スローガンに「顧客にとっての明確な利益」が含まれていなければ──
それはただの“自己満足ポエム”であり、
結果として、企業の競争力を低下させる“足かせ”となる。
ミネベアミツミの、“自己満足スローガン”
ここで、ミネベアミツミが掲げるスローガンを見てみよう。
「世界をこっそり、ごっそり変えていく。」
……で?
それが、顧客にとって何のメリットになるのか?
この言葉からは、
・何を提供している会社なのか?
・どんな課題を解決してくれるのか?
・なぜ他社ではなく自分たちが選ばれるべきなのか?
──そのどれもが、まったく伝わってこない。
これは、たとえるなら、
スクール水着で、オリンピックの競泳100メートル自由形に出場するようなものだ。
本人はやる気満々でも、「場違い感」と「戦略の不在」が痛々しく浮き彫りになる。
一方、世界の競合たちは違う。
彼らは、「機能」と「利益」を一言で伝えるスローガンを武器に、
レーザースーツをまとって、ビジネスという戦場に立っている。
そんな中で──
「なんとなくカッコいいから」と自己満足ポエムを掲げ、
スクール水着のまま、戦場にノコノコと現れる国内企業。
その姿は、こうも見える。
戦略も戦術も持たず、精神論だけを握りしめた丸腰の兵士。
──当然、勝てるわけがない。
バカにされ、笑われ、そして市場から返り討ちにあうだけである。
フェデックスに学べ。「利益を伝える」スローガンとは?
米国の物流企業FedEx(フェデックス)は、
かつて次のようなスローガンを掲げた。
「絶対に、確実に一晩で届ける必要がある時」
たった一言。
だが、このスローガンにはすべてが詰まっている。
✔️“スピード”が必要な顧客をピンポイントで狙い
✔️“翌日配送”という価値を明示し
✔️「絶対に、確実に」という言葉が、サービスの信頼性と実行力を明示している
そして何より──説明しなくても、直感的に意味が伝わる。
顧客は、この一言を聞くだけで即座に理解する。
「これは自分に必要だ」
「この会社は信頼できる」と。
だから売れる。だから支持される。だから競争力が高まる。
それが、マーケティング思考で作られたスローガンである。
反対に、スローガンに“顧客の利益”がなければ、
それはただの耳障りだけはいい、無価値な飾り文句だ。
スローガンとは、
✔️ 誰に向けた言葉なのか?
✔️ どんな価値を届けるのか?
✔️ それは「買う理由」として成立するのか?
──この3つを明確に示せて、初めて機能する。
そのため、「作り手の自己満足」ではなく、
「顧客の意思決定」を促すものでなければ意味がない。
自社社員の気持ちよさのために作るな。
顧客が「買おう」と決断するために作れ。
それこそが、スローガンの本質なのだ。
「顧客の利益」が語られていないスローガンは、毒だ。
スローガンとは──
企業の“旗印”であり、“顧客との契約書”であり、
すべてのマーケティングの起点である。
その言葉に「顧客にとっての利益」が見えなければ、
あなたの会社は、気づかぬうちに市場から淘汰されていく。
たとえば、ミネベアミツミが掲げる
「世界をこっそり、ごっそり変えていく。」というスローガン。
これは“自分たちがどうなりたいか”しか語れていない、
まさに「自己中心的スローガン」だ。
そんな言葉は、今すぐ捨てろ。
語るべきは、“自社の未来”ではない。
語るべきは、“顧客の利益”なのだ。
ひたすら顧客の利益を叫べ。
顧客視点のスローガンを作れ。
あなたは、こう自問できるだろうか──
「うちのスローガン、顧客の利益になっているか?」
もし答えに詰まるなら、今こそ、この問題と向き合う時だ。
そして、その問いに真摯に答えを出し、
スローガンを“顧客の利益”に書き換えるだけで──
あなたの会社は、“選ばれる側”に立つことができる。
最後に、はっきりと言う。
自社視点のスローガンをつくる社員・管理職は、容赦なく切り捨てろ。
顧客視点で利益を伝えようとする人材を、最優先で登用せよ。
それこそが──
顧客に選ばれ続ける唯一の道であり、
半導体市場で生き残り、勝ち続けるための“本質的な戦略”である。