「それ、誰に向けて言ってる?」──ターゲットなきCMが生んだ悲劇
もしあなたが、
「ウチもそろそろCMでも打って、社名を広めたい」
「地方紙から“広告出しませんか?”と営業電話が来た」
「最近は動画広告が主流らしいし、YouTubeでPRしてみようかな」
──そんなことを1ミリでも考えたことがあるのなら、
その発想を今すぐゴミ箱に叩き込め。
いや、業務用シュレッダーで細断し、焼却炉で完全燃焼させろ。
なぜか?
その考えこそが、“マーケティング音痴”への入り口であり、
もっと言えば──「自社の金で、自社ブランドを毀損する行為」だからだ。
そして、そんな“教科書に載せたいほど見事な大失敗”を
テレビ局を使い、堂々と全国に晒してしまったのが──
年商1兆5000億円の巨大企業、ミネベアミツミ株式会社である。今回のCM
には、元卓球日本代表の石川佳純が出演している。
柔らかな雰囲気。可愛らしい映像。優しい声のナレーション。
一見すれば、“良いCM”。
なんなら、“普通の企業CM”として見過ごされるかもしれない。
SNS上では、「癒された!」「カワイイ!」「佳純ちゃん最高!」といった
石川佳純ファンによる“賞賛コメント”が並ぶ光景も、容易に想像できる。
だが、言わせてもらう。
このCMは──マーケティングの根本原理を完全に履き違えている。
広告というのは、こうあるべきだ。
「誰に見せて、誰の感情を動かし、誰に行動を起こさせるか」
この3つがセットで成立して、はじめて広告は“機能する”。
そのため、それらが抜け落ちているCMは、
いくら作り込まれていても、ただの“高価なオモチャ”でしかない。
どれだけ「カッコイイ」「カワイイ」と言われようが、
売上が生まれなければ広告としての意味は“ゼロ”なのだ。
「CMの映像や音声が美しく仕上がったことに満足」
「自社イメージアップにつながる気がするから安心」
──そんな自己満足と自己陶酔に浸りながら、
マーケティングを“やってるフリ”だけしている企業が、
半導体業界には山ほど存在する。
そして、彼らは今日もまた、何の疑問も持たず、
売上が発生しない広告に、莫大な予算を投じ続けているのだ。関連記事:ミネベアミツミの失敗CMに学べ──放送前から“失敗確定”だった3つの理由とは?
ターゲット不在のCMでは売上は立たない
広告の目的とは何か?──答えは、たった一つ。
「広告を見た相手に行動を起こさせ、その結果として売上を生み出すこと」である。
✔︎ 問い合わせをさせる
✔︎ 資料請求をさせる
✔︎ 展示会ブースに足を運ばせる
✔︎ 商談のきっかけを生み出す
✔︎ 商談をクロージングに導く
──手段はどうあれ、最終的に“売上”というゴールに到達させること。
それこそが広告の本質だ。
だが、ここで多くの企業が決定的な落とし穴にハマる。
行動を起こさせたい相手──
つまり、“誰に”向けた広告なのかがまったく定まっていないのだ。
「誰に行動を起こさせたいのか?」──
これが定まっていなければ、広告はただの自己満足で終わる。
いや、もっと正確に言おう。
“高いカネを払って作られた、自社だけが満足するアート作品”になる。
広告とは本来、
「明確なターゲットに、明確なアクションを起こさせるための設計図」である。
そのターゲットが定まっていない広告は、例えるなら──
・誰に向けるでもなく空に向かって撃つ水鉄砲
・目的地を書き忘れた荷物を宅配便で送るようなもの
・観客ゼロの舞台で、誰のためでもなく踊るパフォーマンス
何も届かず、誰の心にも引っかからず、手応えは一切ない。
残るのは、反応ゼロのレポートと、疲弊したあなたの顔だけだ。
それでも、あなたはミネベアミツミのように、
そんな広告に、何億円、何十億円もの予算を投じたいと思うだろうか?
あなたが今、つくろうとしているそのCM──
本当に、顧客を動かすための設計になっているだろうか?
本当に、売上をつくるための武器になっているだろうか?
あなたの会社(身内)だけが満足する、“高価な芸術作品”で終わっていないだろうか?
ミネベアミツミのCMが失敗に終わった、たった1つの理由
さあ、もう一度──あのCM
を見てほしい。
出演しているのは、元卓球日本代表の石川佳純。
CM内では
「あらゆる物にこっそり(ごっそり)入っている超精密部品メーカー」
というナレーションが2度流れ、
石川佳純の口から社名「ミネベアミツミ」が繰り返し読み上げられる。
映像は可愛らしく、雰囲気はやわらか。いかにも“癒し系”な空気感だ。
だが、はっきり言おう。
これは「誰に向けて作られたCMなのか」が、まったく伝わってこない。
このCMのターゲットは誰だ?
学校の先生か? 生鮮スーパーで働くバイヤーか? 石川佳純のファンか?
──どれも違う。ミネベアミツミが売りたい相手は、そんな層ではない。
つまりこのCMは、
「視聴者全員に向かって、なんとなく社名を叫んだだけ」の代物なのだ。
もっと言えば、ミネベアミツミにとって絶対に顧客にならない層にまで、
莫大な広告費を使って自社の宣伝をしてしまっている。
一方で、本当に届けるべき相手──
✔︎ 調達部長
✔︎ 購買担当者
✔︎ 開発責任者
そういった“超精密部品を買う意思決定者”にとって、
このCMはまったく響かない。完全にスルーされる存在である。
なぜなら、彼らが契約の“判断材料”として求める情報が、
このCMには一切盛り込まれていないからである。
もちろん、このCMの目的が
「石川佳純のセカンドキャリア支援」だったのなら──話は別だ。
その場合は素晴らしい。
SNS上は「カワイイ」「癒された」「タレントとしても頑張って」
といったコメントで溢れるだろう。
PR動画としては成功だし、本人のイメージアップにも貢献する。
だが、“売上を生み出す広告”という観点で見れば、完全に失敗作だ。
もし私が、ミネベアミツミの社長だったら、
このCMを企画・承認・実行したマーケティング部門、広告代理店、
そしてゴーサインを出した経営陣、全員に退場いただく。
それくらい、このCMはマーケティングの原理原則から逸脱している。
ターゲットを意識して作っていない広告には、1円の価値もない。
そのような広告に10億円規模の費用を費やしてしまったのが、
今回の失敗の「たった1つの理由」なのである。
中小半導体企業こそ、「誰に売るか」を徹底的に定義せよ
これはミネベアミツミだけの問題ではない。
あなたの会社にとっての、最大の教訓がここにある。
✔︎ あなたの顧客は誰なのか?
✔︎ その顧客はいま、何に頭を抱えているのか?
✔︎ その課題を、あなたの製品・サービスはどう解決できるのか?
✔︎ そして、それをどうやって30秒の広告でアピールするのか?
この4つを明確にできないままCMを作るのは──
スクール水着で、オリンピック競泳100メートル自由形に挑むようなものだ。
結果は見えている。
笑われ、敗北し、観客の記憶から一瞬で消える。
だからこそ、最後にハッキリ言おう。
「ウケるCM」ではなく、「売れるCM」を作れ。
そのためにやるべきは、まず徹底的に定義することだ。
“誰に売るのか?” を。
それがなければ、どんなに豪華キャストを起用しようと、
どんなに映像やBGMを磨き上げようと──
広告はただの高価な“自己満足” ムービーでしかない。
自己満足に酔った企業が辿る結末は、常に同じだ。
世間に笑われ、競合に追い抜かれ、市場から消えていく。
だからこそ、私はあなたに問う。
あなたの会社は、次に“笑われる側”にならない自信があるだろうか?