「視聴者に感動してもらえるCMを作ろうと思っています」──
その瞬間、あなたは“売れない広告”を作る決断を下している。

もしあなたが、広告代理店から、

「最近は感動系がウケてますよ」
「ストーリー仕立てで情緒に訴えるとバズりやすいです」──

そう言われて、
「なるほど」と頷いたのなら、
その瞬間、
あなたはマーケティングという名の“合戦場”で、自らの武器を手放している。

あるいは、社員からこう聞かされたかもしれない。

「競合がカワイイ動物を使ったCMでバズってました」
「SNSでも好意的なコメントがたくさんついてました」

それを聞いて、
「ウチもそういう方向でいこうか」と考え始めているのなら──
今すぐ、その思考を脳内から完全に削除せよ。
あなたは、戦場にぬいぐるみを持って突撃するつもりなのか?

──いや、もっと正確に言おう。
“そこが戦場である”という認識すら持っていない無防備さこそが、最大の敗因である。

広告とは、“武器”だ。
ただの装飾品ではない。展示会の飾りでも、SNSの「いいね」集めでもない。
売上という“血の通った成果”を奪いにいく、実戦用の戦略兵器である。

その武器に、「カワイイ」「感動」「ウケそう」などという
砂糖菓子のような演出だけを詰め込んで、
数千万円の予算を動かす決裁者の心を動かせると、本気で思っているのか?

──それは、紙の剣で戦車に挑むようなものだ。

CMが“ウケる”と、あなたの承認欲求は満たされる──
だが、売上は動かない

感動系。お笑い系。カワイイ系──
これらはテレビCMの世界で、
長年“好感度ランキング”を独占してきた黄金パターンだ。

✔︎ 家族から「CM見たよ!友だちに自慢したよ!」と褒められる
✔︎ 同業の友人から「すごいクオリティですね」と持ち上げられる
✔︎ パパ友・ママ友から「子どもが笑顔になりました!」と評価される

あなたは気分が良くなる。気持ちが高まる。自尊心が満たされる。
「よし、うちもブランディングに成功したな」と、満足する。

──だが、そのCMを見て、誰かひとりでも「資料請求」や「問い合わせ」をしたか?

そしてあなたは、
その広告にいくら投資し、いくら回収できたのか?
その数字を、“上司に即答”できるのか?

「話題にはなったが、売れなかった広告」──
それは、マーケティングにおいて最も高価で、最も無意味な“自己満足型広告”である。

BtoCの成功事例を、半導体業界に“輸入”してはならない

広告代理店が好んで提案してくるのが、
「感動」「カワイイ」「お笑い」系の動画広告だ。

これらは、もともと視聴者の感情を操作し、
一気に購買へ誘導するための装置として発展してきた。
(──当の広告代理店は、その仕組みすら理解していないが)

──百円そこそこの飲料水。
──スーパーで、つい手に取ってしまう日用品。
──スマホを3回タップすれば買えるアプリ。

こうした“即断・即決”型のBtoC商品においては、たしかに有効だ。
感動させれば、笑わせれば、消費者の財布のヒモは一瞬で緩む。

──だが、あなたが売っているのは、半導体である。

しかも、それを買うのは、
「かわいかったから」「面白かったから」「感動したから」──
そんな理由で即決する一般消費者ではない。

購入を判断するのは──

✔︎ 技術責任者、
✔︎ 購買担当者、
✔︎ そして、時には代表取締役そのもの。

彼らの意思決定プロセスは、こうだ──

✔︎ 製品の技術仕様を厳密に精査し、
✔︎ 期待できる成果や導入効果を数値で検証し、
✔︎ 競合製品やサービスと論理的に比較し、
✔︎ 社内で稟議書を通し、
✔︎ 最終的には役員会で承認を得て、ようやく契約に進む。

──この流れの中に、
「感動」や「笑い」、ましてや「カワイイ」が入り込む余地など、
1ミリたりとも存在しない。

あなたの会社の動画広告が、
「うさぎのぬいぐるみが感動する話」だったとしよう。

開発エンジニアは、冒頭10秒でスキップボタンを押す。
購買担当者は、無言で画面を閉じる。
決裁者は、テレビのチャンネルを変える。

そして経営層は──
舌打ちひとつで、あなた以外の企業との契約を即決する。

“感情”を売るな。“解決策”を売れ

半導体企業の広告において、本当に必要なのは──
論理、構造、そして“顧客にとっての明確な答え”である。

顧客が求めているのは、「ウケのいい話」ではない。
ましてや「バズりそうな演出」でもない。

彼らが探しているのは、ただひとつ──
「自社の課題を、確実に解決してくれる技術」だ。

だからこそ、あなたの会社の動画広告は、
次のすべてを満たしていなければならない。

✔︎ 「この技術で、御社の○○な課題を解決できます」と明言する
✔︎ 製品仕様・比較データ・導入事例を視覚的に提示する
✔︎ 「資料請求」「問い合わせ」などの行動喚起を明示する
✔︎ 視聴データをもとに、検証・改善・再設計のPDCAを回す仕組みを持つ

これら4つの構造を欠いた広告は、もはやマーケティングとは呼べない。

顧客の悩みも示さず、行動も促さず、結果も測れないなら──
それは「売るための広告」ではない。
社内ウケを狙った、ただの“自己満足プレゼン動画”にすぎない。

そして──
顧客の反応が見えない広告は、暗闇にフリスビーを投げているようなものだ。

誰が受け取ったかもわからない。
いや、それ以前に──誰に向けて、何のために投げたのかすら不明なのだ。

なぜ、“感動CM”ではPDCAが回らないのか?

日本の半導体企業が、マーケティングで最も多く犯しているミス──
それは、“効果測定が不可能な広告”を作ってしまっているという点にある。

たとえば、以下のような状況に心当たりはないだろうか?

✔︎ 再生回数や「いいね」の数はわかるが、広告からの問い合わせ件数が分からない
✔︎ 広告を見た視聴者が、どの製品・どのサービスに興味を持ったのか不明
✔︎ 広告の結果が悪くても、何をどう改善すれば良いのかの仮説すら立てられない

──つまり、失敗しても原因がわからない。
原因がわからないから、改善もできない。
これは、PDCAの“P”すら始まらない、マーケティング停止状態である。

なぜこうなるのか?
原因は明白だ。

広告代理店が作る、“感動・笑い・カワイイ”系のCMは、
そもそも成果を測る構造になっていない。

「なんとなく良かった」「雰囲気は伝わった」──
そんなあいまいな感想しか残らない広告では、
売上につながる改善案など、永久に出てこない。

売れるCMは、
「誰に」「何を伝えるか」「どうして信用できるのか」で
設計されている

あなたの会社が動画広告を制作する際に押さえておくべきことは、
たったこれだけだ。

誰に

例:省電力チップを探している産業機器メーカーの開発担当者へ

何を伝えるか

例:自社の新型SoCが、発熱量を30%削減し、製品の冷却設計コストを抑制できること

どうして信用できるのか

例:他社製品との比較データ、導入事例、そしてコスト削減シミュレーションを
動画内で提示しているから


この、
「誰に・何を伝えるか・どうして信用できるのか」の構造を満たしていれば、
顧客はこう思う。

「この会社に問い合わせよう」──と。

そして、あなたの会社のマーケティング担当者は、こう報告できる──

「この広告経由の問い合わせは14件。
広告費100万円に対し、発生した売上は120万円でした。
よって、この広告は黒字広告。成功です。」

──この状態こそが、「マーケティングが機能している」状態である。

“超”大企業のCMは、絶対に真似するな

もし、あなたの上司が──
TOPPANホールディングスやミネベアミツミ、東京エレクトロンのCMを見て、
「うちも、ああいう路線で行こう」と言い出したら──

配慮はいらない。
その瞬間に、社内会議を中止せよ。

なぜか?

あれはブランディングCMだ。
マーケティングCMではない。

すでに誰もが知っている企業だからこそ、
“空気のように映して、無意識に刷り込む”という高度な戦略が成立するのだ。

だが──あなたの会社は?

製品名は?
サービス名は?
誰が知っている?
市場における会社の信頼度は?
顧客はあなたのことを探しているのか?

この違いを理解しないまま、大企業のCMを真似するのは自殺行為だ。

しかも、「空気のように見せて覚えさせる」手法には即効性がまったくない。
売上に繋がるまでに膨大な時間と予算がかかる。

なぜか?
広告内で、「今すぐ資料請求を」などの明確なアクションを促していないからだ。

そのため、この手法が使えるのは──
潤沢な資金を持つ一部の“超大企業”だけである。

あなたの会社は、
TOPPANホールディングスや東京エレクトロンなどと広告費で殴り合えるのか?

無理だ。絶対に無理だ。

あなたの会社はまだ、“発見してもらう段階”にいる。
そんな立場の企業が、“印象操作だけ”のCMを打つのは──

裸足でエベレストに登るようなものだ。

「カワイイ」は正義ではない──「売れる」だけが唯一の正義だ

マーケティングにおいて、「誰かに褒められる」ことは成果ではない。
「話題になった」「SNSでバズった」「展示会でウケた」──
そうした現象は、一時的な自尊心を満たすだけで、売上には1円も貢献しない。

では、何をもって広告の“成功”とするのか?

答えは、たった3つの数字だ。

1. 問い合わせが増えた
2. 資料請求が増えた
3. 売上が伸びた


──この3つ以外は、すべてノイズである。

あなたがこれから動画広告を作るなら、自分にこう問い続けなければならない。

✔︎ この広告は、自社の“技術的優位性”を正確に伝えているか?
✔︎ 他社にはない“独自の強み”を、顧客の視点から言語化できているか?
✔︎ 視聴者の“具体的な課題”を捉え、それに対する解決策を提示しているか?
✔︎ 視聴率・クリック率・問い合わせ率など、反応が測定可能な構造になっているか?
✔︎ 仮に失敗しても、「なぜ成果が出なかったか」を分析できる設計になっているか?

この5つの問いは、単なるチェックリストではない。
売れる広告を作るために必須となる“設計図”である。

そして──
この中にひとつでも「No」があるなら、
その広告は、絶対に世に出してはならない。

なぜなら、それは“売れない広告”だからだ。
しかも、誰にも成果を問われないまま、
月々の広告費だけがダラダラと消え続ける“赤字製造装置”と化すリスクすらある。

そんな広告に、あなたの会社の未来を預けてはならない。

広告とは、顧客の心を動かし、行動を生み、数字を変える装置である。
感動させる必要はない。ウケを狙う必要もない。売れれば、それでいい。

──それだけが、広告の正義だ。